2020 Fiscal Year Research-status Report
群れを形成する魚類における配偶システム・性様式の可塑性に関する研究
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20K06823
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
須之部 友基 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00250142)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久米 元 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (00554263)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 配偶システム / 雌雄同体 / アカオビハナダイ |
Outline of Annual Research Achievements |
計画に従い鹿児島湾桜島周辺で2019年7月から開始した月例サンプリングを2020年9月まで行い,合計575個体のアカオビハナダイを採集した.雌の最小個体は14.5mm SL,最大個体は79.3mm SL,雄の最小個体は62.7mm SL,最大個体は95.1mm SLであった.雄:雌の性比は1:6.59で,実効性比は1:5.29であった.本種は雌として生まれ,雄に性転換する雌性先熟の性様式を持つことが明らかとなった.生殖腺指数は7月から9月に顕著に高い値を示していたことから,産卵期は5-10月で,盛期は7-9月と推定された.性転換途中の個体は6個体確認されたが,サイズは体長33-67mmと幅広く,性転換時期も一定ではなかった.本種は雌では体全体が橙色で雄では腹鰭,臀鰭,尾鰭が伸長し体側にピンク色の縦帯が出現するが,性転換個体は雌の外見で生殖腺には精巣部位がすでに形成されており,その後徐々に尾鰭が伸長し,赤帯が出現した. 野外観察は鹿児島市鴨池港および桜島近辺で実施した.桜島における産卵行動は朝と夕方に観察された.本種は様々な大きさの群れを形成するが,約15-30個体の群れ,約300個体の群れ,さらに10,000個体以上の群れが確認できた.15-30個体群では,雄は決まった雌を自分の縄張り内に留めながら求愛する一夫多妻の配偶システムを示していたのに対し,300個体群では雄は目の前を通りかかった様々な雌に対してランダムに求愛を行っていた.15-30個体群 (n = 4) と300個体群 (n = 10) との間で求愛頻度を比較したところ,前者の雄で平均13.3回の求愛行動及び平均0.25回の産卵,後者の雄では平均16.4回の求愛行動及び平均0.3回の産卵が確認され,求愛,産卵はともに高密度の群れの雄で有意に高い頻度で観察された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように2020年度はほぼ当初の計画通りに進んでいる.特に年間通じて月例サンプリングを完了したことで,鹿児島湾におけるアカオビハナダイの繁殖を中心とした生活史が明らかとなった.しかし,耳石を用いた年齢査定については,耳石は既に摘出済みであるが,解析はこれからである.野外観察については,小型群(15-30個体)の配偶システムは一夫多妻であることが明らかとなったが,10,000個体を超す大型群における配偶システムは,群れの大きさから全容を捉えるに至っていない.また当初の予測では大型群の性様式は雌雄異体を予想していたが,サンプリングおよび野外観察の結果から雌性先熟と考えられる.そこでなぜ雌性先熟が維持されているのか明らかにする必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度 成熟および性転換の年齢を明らかにするため耳石の解析を完了する.また鹿児島湾桜島周辺は他地域(鹿児島県枕崎,沖縄等)と比べて個体数密度が高い.これは桜島の周囲で盛んに行われているブリ養殖の残餌を餌として利用している可能性があるので食性についても調査し,特に放射性同位元素を用いて検討する. 野外調査については10,000個体以上の大型群を中心に配偶システムを明らかにする.今年度のサンプリングにおいて産まれながらの雄(一次雄)が1個体採集されている.大型群において一次雄がスニーキングなどの代替戦術を用いて繁殖に参加する可能性もあるので,特に小型雄の存在に注意を払いながら観察を実施する. 2022年度 高密度下では一次雄が出現する可能性があるので性分化する前の幼魚を高密度で飼育し,機能的な雌を経ずに雄に分化するかどうかを確認する.野外観察は不足している部分があれば追加観察する.
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Causes of Carryover |
当初計画では調査及び打ち合わせのため,鹿児島に6回の出張および学会出席2回のよていであった.しかし,コロナ禍により出張が不可能となり学会もオンラインになった.そこで次年度使用額(B-A)が283,886円生じた.次年度分と合わせ必要な備品類と共に,当初3泊4日の鹿児島出張期間を4泊5日に延長し,2020年度にできなかった調査・実験を実施したい.
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