2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K06829
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
村上 貴弘 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 准教授 (40374706)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西野 浩史 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80332477)
宮田 弘樹 株式会社竹中工務店 技術研究所, その他部局等, 研究員(移行) (90416628)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 音声コミュニケーション / 行動生態学 / 進化学 / 聴覚器官 / プレイバック実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は菌食アリ・ハキリアリの音声データの解析、および論文執筆を行った。これまでに収集した音声データが10時間以上あり、詳細な解析に多大な時間が必要であった。それを2020年度前半で全て終えることができた。また、操作実験として音声阻害群・フェロモン阻害群・コントロール群の行動レパートリー解析も統計の専門家に意見を聞きながら、進めることができた。これらのデータ解析の結果を現在Natureに投稿すべく論文執筆中で80%程度の完成度である。 聴覚器官の免疫染色については、生きた標本が必要となり、2020年度のコロナウイルス感染拡大の状況下で菌食アリ・ハキリアリを入手することが困難となり、近縁別種の中型・小型種での実験系確率を目指した。中型ワーカーの弦音器官の観察を、免疫染色することで行い、良好なデータが取れた。この体サイズでの腿節内弦音器官の免疫染色に成功した例は少なく、今後の研究の進展にとって貴重な成果といえる。腿節内弦音器官(FCO)は3つの感覚細胞グループからなり、その一部は基質振動に応じると考えられる。一方脛節にある膝下器官(SGO)も発達しており、これは基質振動受容に特化した働きを持つという知見も得られた。一方で、音に応じる弦音器官を探すべく、くまなく体内を調べたが、メジャーな感覚器が見つけられなかった。体表には鼓膜は存在しておらず、音に応じる器官があるとすればそれは気管と結びついたものだと考えられるが、発見には至っていない。 音声プレイバック実験によるアリの行動変容観察は、実験系の国内での確立を行った。また、オーストラリアでの生体標本やドイツにあるアリ類販売業者からのアリの入手などを検討した。実験系は、ZOOM H8 Field recorderや小型のプレーヤーとスピーカーを組み合わせることで良好な実験系を確立ことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はこれまで収集した菌食アリ・ハキリアリの音声データの解析、論文作成を中心に行い、順調な進展をしている。また、聴覚器官の構造解析に関しては、ほぼ完全な実験系を確立することができたのでこれは想定以上の成果であると考えている。音声プレイバック実験、野外での音声録音実験に関しても国内での実験系の確立に成功しており、順調な進捗状況である。 2020年度の計画ではオーストラリア(NothomyrmeciaやMyrmecia、Onychomyrmexなど)、パナマ共和国でハキリアリ・菌食アリ(Atta, Acromyrmex, Sericomyrmex, Trachymyrmexなど)へのプレイバック実験と野外音声録音を行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厳しい渡航自粛の指示が出たため、現地での実験は行えなかった。その代替措置としてオーストラリアCSIROの研究者に研究分担者の宮田弘樹氏がコンタクトを取り、生体標本の送付に関する手続きを進めている最中である。また、ドイツにあるアリ類販売業者からハキリアリ(Atta, Acromyrmex)の入手および国内での飼育許可を植物防疫・農林水産省に問い合わせ、手続きを進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
ハキリアリ・菌食アリの音声解析に関する論文執筆は2021年度の早い段階で完成させる予定である。上半期で英文校閲、投稿を目指す。 聴覚器官の探索に関しては、ハキリアリ・菌食アリの入手を目指し、ドイツへの渡航・購入・搬入・植物防防疫プロセス・外来生物飼育のための許認可取得を行なったのち、九州大学で飼育し、北海道大学の西野氏の実験室において詳細な免疫染色・観察を行う予定である。2020年度の実績から良好な免疫染色像が得られることが明らかになったので、順調に進むものと考えている。これら2種の聴覚器官の解析は世界的にまだ行われておらず、もし成功した場合は大きな発見となることは間違いない。 また、聴覚器官が明確になった場合、そこを人為的に破壊し音声認識ができなくなった個体の行動変容を実験的に確認することができるようになるものと考えている。これも新規性の高い実験となる。 プレイバック実験は今年度もオーストラリア・台湾・パナマに直接出向くことが困難な状況が予想されるため、生体標本の輸入を基本に、日本国内で実験することを目指す。プレイバック実験系の精査は2020年度に完了しているので、ハキリアリなどの標本が入手でき次第、音声を再生することで行動変容が生じるのかどうかを定量的に測定していく予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、予定していたオーストラリアおよびパナマ共和国でのフィールドワークが実施できなかった。また、北海道大学や竹中工務店での国内研究打ち合わせも基本的にはオンラインで行わざるを得なかったため、旅費の執行ができず、次年度使用額が発生した。
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Research Products
(4 results)