2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K06829
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
村上 貴弘 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 准教授 (40374706)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西野 浩史 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (80332477)
宮田 弘樹 株式会社竹中工務店 技術研究所, その他部局等, 研究員(移行) (90416628)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 音声コミュニケーション / ハキリアリ / 菌食アリ / 膝下弦音器官 / SGO / ジョンストン器官 / プレイバック実験 / 骨伝導マイク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の核心をなす学術的問いは、「アリ類の音声コミュニケーションの進化プロセスを解明する」である。本研究は、ア リ類の主要な属での発音器官、聴覚器官、そして音声解析を横断的に行う初めての研究とな る。また、高度に社会を発達させ、菌類との密接な共生関係を進化させているハキリアリを題材に、その音声コミュニケーションの複雑なシステムを解明し、「言語体系」を構築する。 これらの研究は、基礎研究のみならず侵略的外来生物のヒアリや中南米で大きな農業被害を出しているハキリアリへの新たな防除法を提供できるものとして考えている。2021年度の研究実績は、3点である。(1)ハキリアリを中心とした菌食アリにおける音声コミュニケーションの進化に関する詳細なデータ解析を行いBMC Biologi (Impact Factor = 7.4)に投稿し、現在Major Rivisionを修正し、再提出したところである。(2)ハキリアリ、ニシムネアカオオアリ、ケブカアメイロオオアリを用いて膝下弦音器官(SGO)、腿節弦音器官(FCO)の構造を抗体染色により詳細に解明した。また、触角に存在するとされていたジョンストン器官も確認することに成功した。さらに、前肢膝下弦音器官の3次元立体構造を世界で初めて可視化し、感覚細胞数の正確な同定に成功した。(3)ヤマトアシナガアリを用いて、独自に開発した骨伝導スピーカーを利用したプレイバック実験装置を用いた音声感受性実験を行ない、特定の周波数に反応することを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理由は3点ある。 (1)ハキリアリ・菌食アリにおける音声コミュニケーションのデータ解析が順調に終了し、論文執筆・英文校正も完了し、Natureに投稿した。Editor Kickではあったが、BMC Biologyの編集長に繋いでもらい、ポジティブな反応であった。現在、1回目の査読が終了し、Major Rivisionとはなっているが、修正を完了し提出した段階である。このまま順調に進めば、2年目の成果でIF=7.4の比較的インパクトのある国際誌に掲載され、当初の計画以上の進展を見せている。また、2021年度の日本生態学会で口頭発表を行い、200名弱の参加者を集めることができ、内容も高く評価された。 (2)ハキリアリ、ニシムネアカオオアリ、ケブカアメイロオオアリを用いた抗体染色による聴覚器官の探索は、当初の計画以上の成果を上げている。これまで詳細な構造解析がなされてこなかったアリ類において、今回膝下弦音器官、腿節弦音器官、触角のジョンストン器官、さらにはSGOの3次元立体構造解析まで成功させられたのは大きな成果であり、世界初の成果を多く含むものとなった。 (3)プレイバック実験もこれまで明確な成功例があまりないジャンルであったが、本研究チームによる「骨伝導スピーカー」を用いるという画期的なイノベーションにより、明確な行動の違いを検出することに成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ハキリアリ・菌食アリの音声コミュニケーションの進化に関する詳細な解析データの論文は今年度早々にも出版にこぎつけられるよう、最大限努力する。この成果を国際学会で発表していきたい。 (2)ハキリアリ、ニシムネアカオオアリ、ケブカアメイロオオアリを用いた抗体染色による聴覚器官の探索は、独創性が高く、かつ今後多くの研究者が参画できる研究ジャンルを切り拓く可能性を秘めた潜在性の高いデータである。今年度前半で論文化し、よりインパクトのある国際誌に発表する予定である。 (3)プレイバック実験に関しては、できればこれまで国内で開発した「骨伝導スピーカー」法を野外の特徴的なアリ類(オーストラリアのNothomyrmeciaやOnychomyrmex、パナマやメキシコのハキリアリ・菌食アリ、ブラジルのヒアリなど)で実地で実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度も新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、海外・国内共に当初予定していた野外での実験のための旅費の執行が困難であった。最終年度はできる限り野外での調査を優先的に行いたい。
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Research Products
(3 results)