2021 Fiscal Year Research-status Report
記憶の固定化を支えるシナプス結合の変化とその制御機構
Project/Area Number |
20K06860
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
宮脇 寛行 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (40785979)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 神経生理学 / 記憶固定化 / 大規模電気生理学 / 恐怖学習 / 睡眠 |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶はまず経験時に獲得され、その後の睡眠中などに安定な形に固定化される。この一連の過程で記憶に関与する脳部位が変化してゆくことが古くから知られている。これは、脳領域間をまたぐ広域的な神経ネットワークが動的に変化することを示唆している。一方、近年の神経活動の計測・操作技術の発展により、個々の脳領域では記憶の獲得時に活性化した神経細胞と同じ神経細胞が活性化することで記憶の想起が起きていることが明らかにされてきた。これは、個々の脳領域の局所回路レベルでは、神経ネットワークが安定に保持されていることを示唆している。 このように、広域回路のレベルと局所回路のレベルでは神経ネットワークの安定性について相反する仮説が提唱されている。しかし、これらのギャップがどのように埋められるのかは不明である。この点を明らかにするため、自由に行動しているラットの脳の3つの領域から同時に大規模電気生理学記録を行い、多数の神経細胞の活動を記憶の獲得から想起まで連続して記録した。さらに、このデータに対し独立成分分析や相関関数解析を応用した数理解析を行い、記憶の獲得によって各脳領域で個別に同定された記憶に関与する神経細胞集団が、3つの脳領域でほぼ同時に活動するようになることを明らかにした。また、この同期活動の際には、関与している脳領域で見られる100-200Hz程度の速い局所電場電位の振動が一過的に亢進していることを発見した。これらの発見により、記憶の獲得ならびに記憶の固定化の最初期段階において、記憶の獲得前には存在しなかった脳領域横断的な相互作用が生じることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3つの領域にまたがる動機活動を評価するためには、3領域の活動を同時に扱うための解析手法が必要となる。本年度は、相関関数解析を3変数に拡張する手法を確立することでこの問題を克服し、3領域横断的な同期活動のタイミングを特定することに成功した。さらに、3領域同期活動の基盤となるネットワーク活動を同定することができた。これは、今後実施予定の介入実験の標的となる活動パターンを決定する上で極めて重要な知見となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究を通し、記憶の獲得にともない速いネットワーク振動を介した脳領域横断的な同期活動が生じるようになることが明らかとなった。速いネットワーク振動はシナプス結合の変化を誘導するのに適した活動であると目されており、これが脳領域横断的な同期活動を可能とする脳領域間ネットワークの変化を誘導している可能性が考えられる。そこで、このネットワーク活動に選択的な介入を行うことで、この可能性を検討してゆく予定である。 新型コロナウイルス感染症拡大を始めとする様々な要因が重なり、ネットワーク活動への介入実験に必要な機器が揃っていない状況であるが、今年度の繰越分を来年度の予算と合わせ、実験装置を来年度の早いタイミングで完成させる予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行が収束せず、学会発表を始めとする出張が中止・延期されたことや、機器選定の際のデモの実施を延期せざるを得ないケースがあることから、予算執行に遅れが生じている。 繰越分は翌年度分の予算と合わせ、介入実験を行うための機器の作成ならびに記録用消耗品などに充てる予定である。
|
Research Products
(5 results)