2021 Fiscal Year Research-status Report
髄鞘軸索間結合パラノーダルジャンクション依存的軸索恒常性維持機構の解明
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20K06863
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
石橋 智子 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (50453808)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ミエリン / パラノーダルジャンクション / 小脳プルキンエ細胞軸索 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々脊椎動物の神経軸索の多くは生後軸索周囲に髄鞘が形成されることにより、ランビエ絞輪から絞輪へと跳躍伝導が可能になる。このランビエ絞輪部両隣には髄鞘と軸索を繋ぎ止める膜間結合paranodal axoglial junction (AGJ) がある。AGJ形成には軸索側の細胞接着分子Casprおよびcontactin、髄鞘側のNeurofascin-155が必須であり、AGJ形成後に電位依存性Na+チャネルはランビエ絞輪に電位依存性K+チャネルはjuxtaparanodeへ集積しクラスターを形成する。すなわちAGJは軸索表面のチャネルの局在変化・維持に必須の障壁である。本研究ではAGJの軸索内部環境への影響、軸索機能維持、特にカルシウム恒常性維持における役割を明らかにしたいと考えている。これまでにAGJ形成不全マウスの小脳プルキンエ細胞軸索に限局した腫脹が認められること、軸索腫脹の引き金が小胞体に存在するカルシウムチャネルであるIP3R1の過剰な集積である可能性を明らかにした。IP3R1陽性の軸索腫脹部位にはIP3R1以外にもカルシウム恒常性に関与する分子VDAC、Mitofusion2、SigmaR1などの集積もあり軸索局所のカルシウム恒常性の破綻が示唆された。またこれら分子の集積はIP3R1の発現量に依存している可能性を示唆する結果も得た。さらにカルシウム活性化K+チャネルであるIK1およびSlo1の軸索腫脹部への集積も見出した。AGJ形成不全軸索では、軸索局所でのカルシウム濃度が過剰に上昇し、IP3R1の集積およびその他カルシウム活性化K+チャネルの局在変化、さらには小胞体およびミトコンドリアの分布が変化したと考えられた。これらの結果はAGJ形成がプルキンエ細胞軸索のIP3R1の局在およびカルシウム恒常性維持に重要な構造であることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
正常マウス小脳(生後0から1日および胎生13日目)由来のin vitroミエリン培養系で髄鞘形成に伴うプルキンエ細胞軸索におけるIP3R1局在変化を詳細に調べた。髄鞘形成前、軸索全体に分布していたIP3R1は軸索周囲に髄鞘が巻かれAGJが形成されると、コンパクトミエリンに覆われたインターノードへ集まっていった。軸索腫脹をin vitroで再現するために、昨年に引き続きAGJ形成不全を呈するCST欠損ヘテロマウスとIP3R1欠損ヘテロマウスを交配することにより得たCSTホモIP3R1ヘテロマウス小脳を用いた培養系で詳細に観察することを目指していたが、マウスの交配率が悪く培養に供することができなかった。一方、カルシウム活性化カリウムチャネルであるIK1およびSlo1は小脳では、小脳プルキンエ細胞特異的に局在するが、CST欠損マウスのIP3R1陽性のプルキンエ細胞軸索腫脹部位に強い陽性所見が認められた。このことよりIP3R1陽性腫脹部位ではカルシウム濃度が上昇している可能性が強く示唆された。また、これまで組織学的解析にはコンフォーカル顕微鏡を主に用いてきたが、より広い領域で厚みのある組織を解析するために、透明化処置をおこなった小脳組織を観察する方法を考え、透明化に最適な条件の検討を行った。プルキンエ細胞特異的プロモーターL7制御下でミトコンドリア-小胞体膜近接領域(MAM)および小胞体に豊富に存在する分子の発現ベクター作製を昨年に引き続き行った。生化学的解析ではショ糖/マンニトール溶液を用いた超遠沈法により正常マウスおよびCST欠損マウス小脳組織からMAMに豊富に存在する分子に対する特異抗体を用いて精製を確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
AGJ形成不全に伴うプルキンエ細胞軸索の腫脹形成を経時的に観察するためには、in vitroの系が必要である。したがって昨年に引き続き、AGJ形成不全を呈するCST欠損ヘテロマウスとIP3R1欠損ヘテロマウスを交配することにより得たCSTホモIP3R1ヘテロマウス小脳(生後0から1日および胎生13日目)組織を用いた培養系で軸索腫脹を再現し、腫脹形成の機序を明らかにする。プルキンエ細胞特異的プロモーターL7制御下でミトコンドリア-小胞体膜近接領域(MAM)および小胞体に豊富に存在する分子の発現ベクター作製を完成させる。前述した培養細胞にトランスフェクションしAGJの状態と軸索内のそれら分子の挙動を詳細に調べるため、遺伝子導入の条件を確立する。初代培養へのトランスフェクションは毒性が強い可能性があるのでトランスフェクション試薬を複数試すとともに、エレクトロポレーションでの遺伝子導入も同時並行して行う。透明化処理を施した正常およびCST欠損マウス小脳組織を用いて、腫脹部位の3D画像を取得しIP3R1の集積、カルシウム活性化カリムチャネルであるIK1およびSlo1の局在変化、また小胞体およびミトコンドリア特異的分子の変化も調べ、プルキンエ細胞軸索腫脹と髄鞘の状態を詳細に解析する。さらにCSTホモIP3R1ヘテロマウス小脳組織も同様に透明化処理を行い、IP3R1の発現量の低下が軸索腫脹形成および腫脹の性状にもたらす影響を調べる。
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Causes of Carryover |
以前続くコロナ禍のため海外出張、国内出張が中止され旅費がなかったこと、投稿論文が受理されず印刷代が掛からなかったことなどによる。最終年度の論文投稿の際に不足しないようにしている。
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Research Products
(1 results)