2020 Fiscal Year Research-status Report
Mechanism of G protein signals regulating bi-directional axon transport and axon growth, regeneration and degeneration
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20K06880
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中村 岳史 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 教授 (60362604)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞内シグナル伝達 / 軸索伸長 / 軸索再生 / 小胞輸送 / G蛋白質 / イメージング / 軸索変性 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類成体の中枢神経軸索は損傷からの再生能力を失っている。この再生能の欠如は、末梢神経や発生期哺乳類の中枢神経が示す軸索再生能の高さと対照をなす。私たちは、膜輸送の制御を通じて神経突起の伸展を促進するGタンパク質TC10が、末梢神経の再生に不可欠であることを運動神経の軸索切断の系で見出した。哺乳類成体の中枢神経の損傷軸索についても、適切な処理の組合せによりある程度の再生を誘導できることが示されている。TC10 KOマウスでは、この人工的に誘導された中枢神経の軸索再生が大きく低下することを視神経損傷からの再生の系で示した。KOマウスでの再生能低下の背後には神経軸索伸長の低下があり、その分子メカニズムとしてTC10による膜輸送・膜付加を想定していた。本年度の研究では、膜輸送の制御に加えて、TC10が微小管を安定化させて軸索の退縮を防ぐことで神経突起伸展を促進していることを見出した。TC10単独の遺伝子欠損で微小管制御に異常が生じることは予想外の結果でありその経路が興味深い。 後期エンドソームやリソソームで構成される分解経路は細胞内輸送の主要ルートである。変性蛋白質の細胞内蓄積に由来する神経変性疾患の初期病変の多くについて、リソソームの形成と細胞内配置の異常が関わると考えられている。Gタンパク質であるRab7はオンとオフの二状態をシャトルする分子スイッチであり、分解経路のマスターレギュレータである。本研究課題では、アルツハイマー病の複数のモデルを使って、Rab7活性を可視化するセンサーにより疾患とリンクするRab7活性分布の異常を検索することを計画している。脳スライス等での検討を想定してAAVによりRab7センサーを神経特異的に発現させる系を構築した。海馬初代培養ニューロンを試料として共焦点顕微鏡によるFRETイメージングでRab7活性の空間分布が可視化できることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野生型マウスとTC10 KOマウスそれぞれから得た海馬初代培養神経細胞を数時間にわたってタイムラプス観察すると、軸索伸長の様子が明確に異なった。野生型ニューロンの軸索がおおむね連続して伸び続けるのに対して、KOニューロンの軸索は頻繁に伸展と退縮を繰り返す。一定時間内のKOニューロンの軸索の退縮頻度は野生型ニューロンの軸索の退縮頻度の8倍であった。また成長円錐基部での微小管の束化は退縮を防いで効率よく軸索が伸びるのに必要であるが、野生型ニューロンとKOニューロンとで、成長円錐付近の微小管の分布を細胞染色で検討したところ、KOニューロンの微小管は成長円錐基部での束化が低下していることがわかった。また、安定化した微小管のマーカーとしてチューブリンのアセチル化を検討した。野生型ニューロンとKOニューロンとで抗アセチル化チューブリン抗体で細胞染色を行ったところ、遠位軸索から成長円錐にかけて、KOニューロンではチューブリンのアセチル化が有意に減少していた。以上の結果は、神経軸索においてTC10が特異的に微小管を安定化するシグナルを流していることを意味している。 Rab7活性を可視化するセンサーは私たちが2016年に発表したものを用いて、それをpAAV-hSynベクターに組み込んで293T細胞に導入した。TX-114を用いてRab7センサーを発現するAAVを調製した。PCRでおよその力価を評価したのち、海馬初代培養神経細胞に組換えAAVを感染させて、1週間~2週間後に共焦点顕微鏡で観察した。Rab7センサーは神経細胞でのみ強く発現しており、グリアなどでの発現は認められなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
神経軸索においてTC10が特異的に微小管を安定化するシグナルを流していることを意味している。ここから出てくる課題は以下のようなものである。(1) TC10から微小管安定化までの経路はどのようなものであるか。(2) なぜそれが特異的であるのか。つまり、Cdc42やRac1からのシグナルとどこが異なるのか。 (1) については、微小管安定化のターゲットの同定と、そのターゲットをリン酸化する酵素の検索により、TC10と微小管安定化の間をつなぐことを目指す。(2)については、以前の当グループの研究により、Cdc42とRac1の活性化が細胞膜で起きているのに対して、活性化TC10が主に小胞に存在することが明らかになっており、この知見にもとづいて、TC10から微小管安定化までのシグナルが局所的に流れていることを示すことを目指す。また、分子機能と個体での役割を結び付けて考えるうえで、TC10から発する微小管安定化・軸索伸長促進という分子機能が、TC10による軸索再生の促進とリンクしているのかという点が特に重要であると考えており、その課題にピンポイントで答えを出せる系を構築する工夫を案出したいと考えている。 本年度の研究で、synapsinプロモーターとRab7センサーを組み込んだAAVを使うことで、神経細胞特異的にRab7活性のFRETイメージングを行う系を立ち上げることができた。まずこの系で海馬初代培養神経細胞でのRab7活性の空間分布を共焦点顕微鏡により検討することで、生理的な状態での標準的な活性分布を把握する。次に、APP-OSK変異体などを一過性に発現させて病理的なtraffic jamを誘導した状態で、その標準的な活性分布からどのようなずれが生じるかを検討することを計画している。
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Causes of Carryover |
年度末に動物実験のやりくりがうまく調整できなかったため、その分使用額がずれた。次年度にマウスを使った実験が増えるのでマウスの購入など関連する経費に充てる。
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Research Products
(4 results)