2020 Fiscal Year Research-status Report
ナトリウムポンプとグルタミン酸輸送体の機能連関:その生理的役割と制御機構
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20K06882
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
佐竹 伸一郎 生理学研究所, 助教 (30360340)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スライスパッチクランプ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
サイクリン依存性キナーゼ阻害薬roscovitineには、小脳顆粒細胞‐分子層介在神経間グルタミン酸(Glu)作動性シナプスならびに顆粒細胞‐プルキンエ細胞間Glu作動性シナプスにおいて、シナプス小胞体の多重性放出(multivesicular release, MVR)を促進させる作用があることを発見した。またroscovitineは、分子層介在神経‐プルキンエ細胞間GABA作動性シナプスにおいて記録した、抑制性シナプス後電流(IPSC)の振幅と減衰時間を同じくMVRの亢進により増大させることを併せて報告した。
Roscovitineの作用機序を電位依存性カルシウムチャネル(Cav)集合体と開口放出カルシウム(Ca)センサーの位置関係に着目して追究した。緩徐結合性Caキレート薬EGTA-AMを小脳スライス標本に先行投与することにより、roscovitineの興奮性シナプス後電流(EPSC)増大作用は著しく減弱した。一方、roscovitineによるIPSC増大は、急速結合性Caキレート薬BAPTA-AMにより強く阻害された(EGTA-AMは無効)。これらの結果は、roscovitineのMVR亢進作用は興奮性シナプスと抑制性シナプスでは発現機構が異なること、特に興奮性ニューロン顆粒細胞の軸索終末においては①内在性Ca緩衝機構(Ca buffer)と②Caマイクロドメインシグナリング(即ち、Cavチャネル集合体から遠位にある開口放出Caセンサーの動員)がMVRの誘発に重要な役割を担っていることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Roscovitineがシナプス種特異的な様式でMVRを亢進する作用の分子的基盤を解き明かすことができた。脳スライス標本にroscovitineを適用することにより、興奮性・抑制性両シナプスのMVRを任意に制御できる可能性が生まれた。
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Strategy for Future Research Activity |
グルタミン酸輸送体(興奮性アミノ酸輸送体 excitatory amino acid transporter, EAAT)は、シナプス前終末から放出された興奮性伝達物質Gluを細胞に回収することにより、神経伝達を速やかに終結させるとともに、過剰Gluによる神経毒性から神経細胞を保護する役割を持つ。EAATのGlu輸送動態は細胞外のGlu量(濃度)に依存して大きく変化する。Roscovitineを用いてMVRをコントロールすることにより、シナプス間隙に放出されたGluの量的変化がEAATのGlu輸送機能におよぼす影響を検討したい。
EAATとNaポンプ(Na,K-ATPase)の協働性が古くから指摘されている。しかし、両分子間の物理的・機能的連関の生理学的な意義は未だ明らかにされていない。EAATとNaポンプ各サブタイプ間の共役関係に焦点を当てて研究を推進していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
実施計画に基づき、滞りなく研究を遂行することができた。一方、学会や研究会の多くがオンライン開催となるなど旅費を使用する機会には恵まれなかった。次年度は、光解除性物質を用いたEAAT機能評価実験を予定している。この実験では、受容体阻害薬など高額試薬を脳スライス標本に高濃度かつ長時間に渡って投与し続ける必要性がある。これら試薬類の購入に充当したい。また動物飼育体制の改編に伴い、飼育費用が大幅に増大すると見込んでいる。こうした増大分の補填にも使用したい。
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Research Products
(2 results)