2021 Fiscal Year Research-status Report
鳴禽類における親子間の相互作用が発声学習を促進する神経メカニズム
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20K06907
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
柳原 真 帝京大学, 先端総合研究機構, 講師 (60392156)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドーパミン / VTA / SNc / 歌学習 / 鳴禽類 / 社会的相互作用 / 発声 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画に従って、行動中のキンカチョウ幼鳥が歌を聴き憶える際や歌を発声する際に、中脳VTA/SNcから神経活動計測をおこなった。その結果、親鳥から聴き憶えた歌を手本として自己のさえずりを修正する感覚運動学習の過程で、VTA/SNcにおける一群のニューロンが発声に先行して一過的な活動の変化を示すことを見出した。これらの細胞は、幼鳥が親鳥から歌を聴く際には活動の変化を示さないことから、歌を聴き憶える過程ではなく、発声行動にのみ関わる運動関連活動であることが明らかになった。さらに、神経活動と歌要素との時間的関係を詳細に調べた結果、この一過的な活動は一連の歌の開始に数十ミリ秒先行していたが、個々の歌要素に相関した活動ではないことが分かった。以上より、このような発声開始時に特異的な活動の変化を示すVTA/SNcの細胞が、さえずりの準備状態にある脳神経回路に対して開始信号を伝えることで、小鳥が歌をうたい始めると考えられる。従来、中脳のドーパミン神経系は、報酬、意欲、運動などに関わる重要な脳領域として知られ、ドーパミンニューロンの死滅によって脳内のドーパミン量が減少するとパーキンソン病の症状が引き起こされる。本研究により、「発声開始信号の伝達」という中脳ドーパミン神経系の新たな機能的側面が明らかになり、ヒトにおける発話などの複雑な行動を生み出す脳のしくみの解明につながる糸口が見いだされた。今年度はこれらの研究結果をScientific Reports誌に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、幼鳥が歌を聴き憶える感覚学習と、聴き憶えた歌の記憶に基づいて自己の発声を修正していく感覚運動学習において、VTA/SNcから神経活動計測を進めている。その結果、VTA/SNcは聴覚学習に関わるニューロン群と発声開始に関わるニューロン群がそれぞれ存在していることがわかった。また、それぞれのニューロン群はVTA/SNc内に混在していることも組織学的研究より明らかになった。哺乳類のVTA/SNcには歩行やレバー押し行動の開始に関わるニューロンの存在が示されている。本研究で見出した小鳥のVTA/SNcにおける発声開始に関わるニューロンの存在は、哺乳類と鳥類の中脳ドーパミン神経の機能について進化的側面から考察する上でも重要な知見といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従って、社会的相互作用に基づく小鳥の歌学習における中脳ドーパミン神経の役割について、神経生理・薬理・組織化学的手法から検討する。特に、今年度は聴覚野における神経応答がドーパミンによってどのように修飾され、歌学習の促進に寄与するのかを明らかにすることを目指し、引き続き実験を進める。
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Causes of Carryover |
確立した神経活動計測実験によるデータ取得と論文のとりまとめを主におこなったことから、支出が予定よりも低く抑えられたため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(2 results)