2020 Fiscal Year Research-status Report
発達期皮質神経回路形成におけるカンナビノイドの役割
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20K06913
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
伊丹 千晶 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (90392430)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 臨界期 / 可塑性 / カンナビノイド / 2-AG / 体性感覚野 / 大脳皮質 / 発達期 |
Outline of Annual Research Achievements |
感覚皮質の臨界期可塑性の研究は、視覚野を用いた研究(Wiesel and Hubel, 1963)により始まったが、他の大脳皮質にも臨界期があることが知られると、一般に大脳皮質の学習のメカニズムの基盤と想定され、膨大な実験を通して多くの関与する分子メカニズムも明らかにされたが、臨界期全体がどのような大枠の中で如何に進んでいくのかという全体像は依然として不明瞭なままにとどまっていた。このような中、申請者は齧歯類のバレル皮質を用いて、生直後(P0)以降、視床皮質投射形成とその過形成からの退縮(P5以降)、P6以降の4→2/3層(L4→L2/3)投射形成に、それぞれ異なる神経活動と関与した可塑性、すなわち異なるスパイクタイミング依存性可塑性(STDP)が関与することを明らかにした。更に視床皮質投射の過形成からの退縮にはカンナビノイド受容体(CB1R)を介したSTDPが関与し、またP12-15以降、L4-L2/3シナプスでもCB1Rが関与したSTDPが出現することで臨界期が開始する事を示し、皮質内回路形成から臨界期開始に至るモデルを初めて提示する事ができた(Kimura and Itami, J.Neurosci, 2019, Viewpoints)。 STDPのLTD成分は、視床→L2/3、L4→L2/3いずれのシナプスでもCBを介し、特に視床-L2/3投射ではeCBが投射制御に重要である事を明らかにしたが、eCBの実体は不明である。従来より、アナンダミドか、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)のいずれかで議論されているが、大脳皮質では結論は出ていない。そこで2-AGの合成酵素である、ジアシルグリセロールリパーゼアルファ(DGLalpha)を遺伝的に欠損する動物(DGLa-KO)を用いて以下の実験を行い、2-AG欠損下ではCB1依存性の現象が見られないかどうかを調べ、2-AGがeCBである可能性を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カンナビノイドは大脳皮質STDP-LTDに重要である事を明らかにしてきた。本研究では内因性カンナビノイド(eCB)の実体が2-AGであるかを明らかにするために2-AGの合成酵素であるDGLαを遺伝的に欠損したDGLa-KOマウスを用いて、STDPが誘導されるか否かを調べた。その結果、DGLa-KOでは、VB→L4、L4→L2/3のいずれのシナプスでもSTDP-LTDが誘導されなかった。このことから、体性感覚野のSTDP-LTDは、2-AGがeCBとして機能していることが強く示唆された。 また、成熟動物の大脳皮質では、L4細胞はL2/3へ投射するが、大脳皮質に特徴的な円柱状投射を示し、カラム内の皮質2/3層へ特異的に投射する。この細胞は、P6頃から軸索を伸ばし始め、当初は白質方向に伸び、P8~9頃反転してターゲットのL2/3へ向かうが、この時は隣接カラムへ、時には更にその隣のカラムにまで枝を伸ばし、P15~16頃から次第に自己カラム内に収まりだす。ところが、DGLα-KOでは成熟動物でも多くの細胞が、近傍のカラムに軸索を伸ばしたままである事を見出した。これは2-AG依存性に隣接カラムへの軸索がLTD-STDP主導の下、刈り込まれて円柱状投射ができることを示唆するものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
DGLa-KOマウスにおける実験により、L4細胞のL2/3へのカラム様投射はカンナビノイド依存性である可能性が示された。そこで、CB1R-KOマウスを用いて4層細胞へのCB1R強制発現によるレスキュー実験を行う。また、CB1R agonist投与によりL4細胞軸索に刈り込みがみられるかを検討する。
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Causes of Carryover |
令和2年は新型コロナウイルスによる緊急事態宣言のため研究活動が制限され、予定していた実験を実行することが困難となり予算を消化することができなかった。現在、研究協力者の上阪直史教授(東京医科歯科大学)協力の下、東京大学狩野方伸教授研究室の実験室において、CB1R-KOマウスによる、4層細胞CB1R強制発現によるレスキュー実験も部分的に開始しており、既に予想通りの予備的な結果も得ており、この実験の継続によって繰り越された予算を使用する予定である。
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