2020 Fiscal Year Research-status Report
オルト位に極小置換基を有する炭素-窒素軸不斉化合物の創製
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20K06945
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
北川 理 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (30214787)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 軸不斉 / キナゾリノン / エナンチオマー / フッ素 / 重水素 / チオン |
Outline of Annual Research Achievements |
アトロプ異性型軸不斉化合物は不斉触媒,不斉配位子,不斉識別剤等で汎用される極めて重要なキラル化合物である.当該化合物において,安定なアトロプ異性構造を有するためには,不斉軸周りに一定以上の立体的嵩高さを有する原子もしくは原子団が必要であると考えられてきた.本研究はこれまで報告例のなかったオルト位にフッ素原子や重水素原子等極小置換基を有する安定なアトロプ異性型軸不斉化合物の創製を目的に行なうものである. 本年度は主として,オルト位にフッ素原子を有する安定な炭素-窒素軸不斉化合物の創製について検討した.すなわち,3位窒素原子上にオルト-フルオロフェニル基を有するキナゾリン-4-オン誘導体が,安定なアトロプ異性構造(炭素-窒素不斉軸の回転障壁26.1-26.5 kcal/mol)を有することを見いだした.また,同化合物の不斉軸の安定性は2位の置換基によって大きく変化すること,さらには,4位カルボニル酸素を硫黄原子に置き換える(キナゾリノンをキナゾリンチオンに変換する)と回転障壁が大きく向上すること(29.3 kcal/mol)も明らかにした. 以上の知見を基に,より困難な重水素原子に基づく炭素-窒素軸不斉化合物の創製に挑戦し,3位窒素原子上にオルト-重水素化フェニル基を有する2-エチルキナゾリン-4-チオンの合成に成功した.当該化合物の炭素-窒素軸の安定性をDFT計算を用いて精査したところ,24 kcal/mol程度の回転障壁を有すると推定された.現在,キラルHPLCによるエナンチオマー分離や旋光光度計を用いた旋光度の確認を行なっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はオルト位にフッ素原子を有する安定なアトロプ異性型軸不斉分子の創製とその回転障壁の向上を目的としており,これらはほぼ達成できたものと考えている.すなわち,3-(オルト-フルオロフェニル)キナゾリン-4-オン誘導体が安定な軸不斉構造を有すること,ならびに,チオンに変換することで,炭素-窒素不斉軸の回転障壁がさらに(3 kcal/mol程度)向上すること等を明らかにした.また,3位窒素原子上に重水素化フェニル基を有する2-エチルキナゾリン-4-チオンの合成にも成功しており,次年度に実施予定であった重水素原子に基づくアトロプ異性(同位体アトロプ異性)の予備的実験も行なうことができた.よって,本年度の課題進捗状況を”おおむね順調に進展している”と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,3-(オルト-重水素化フェニル)キナゾリン-4-チオンの同位体軸不斉に基づくエナンチオマーが,キラルHPLCで分離可能かどうか明らかにする.また,光学活性体を手早く合成し,旋光光度計により比旋光度が確認できるかも併せて検討する. 同位体軸不斉の創製には二つの大きな問題点を克服する必要がある.すなわち,不斉軸の回転安定性を充分に確保すること,ならびに,重水素と軽水素をどのようにして識別するかである.フッ素原子の立体サイズは水素原子の1.2倍ほどあるが,重水素原子と軽水素原子の立体サイズはほとんど差がないことから,同位体軸不斉はさらに不安定であり,識別もより困難であると考えられる. したがって,キラルHPLC法や比旋光度測定に変わる新たな検出方法を考える必要がある.その方法の一つとして,不斉をキナゾリノン基質中に導入してジアステレオメリックな構造とし,NMRにて同位体軸不斉を検出する方法を考案する.
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Causes of Carryover |
コロナ禍による緊急事態宣言発出により, 実験が2ヶ月程度全くできなかった期間が生じたため,当初予算との差額が生じた.昨年度予定していてできなかった実験は今年度中に行なう予定であり,それに伴って昨年度生じた差額分は今年度使用するつもりである.
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