2020 Fiscal Year Research-status Report
構造誘起型人工アミノ酸含有ヘリカルペプチドによるタンパク質間相互作用制御
Project/Area Number |
20K06962
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
尾谷 優子 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (60451853)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | タンパク質ータンパク質相互作用 / ヘリックス分子 / p53-MDM2相互作用 / 環状ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
p53はがん抑制因子として機能するタンパク質である。MDM2はp53とのPPIによりMDM2-p53の負のフィードバックループを形成し、p53を抑制的に制御する。MDMXはMDM2の同類体であり、MDM2と協調して働く。p53-MDM2/MDMX相互作用の阻害剤、すなわちMDM2/MDMXのアンタゴニストは、p53の分解を防ぎ、p53の細胞内活性を回復させる治療薬となる可能性がある。 われわれは以前、トランス型のアミド結合を持つ人工アミノ酸(Abh)を創製した。これをつなげたペプチドがわずか3残基においても安定なヘリックス構造をとり、その長さがMDM2と相互作用するp53のヘリックス構造部分の長さに匹敵することに着目し、p53-MDM2、p53-MDMX相互作用を阻害することを見出した。 本研究では、われわれが報告した化合物の阻害に関する構造活性相関を調べ構造最適化を行うことを目的とし、ドッキングシミュレーションと分子動力学計算を行って相互作用に重要な部分構造を推測した。その結果に基づきペプチドの末端部分を改変して阻害活性を調べた。阻害活性測定にはELISA法を用いた。そして3残基ペプチドのN末端に芳香環を持つ置換基やシクロヘキシル基があると、MDM2 / MDMXの結合ポケットへの結合が強化され、阻害活性が高まることがわかった。さらに、C末端エステルをカルボン酸に変換すると溶解性と阻害活性が向上することが分かった。 さらに、共同研究で行っていただいた熱力学的分析により、阻害活性の高いペプチドがエントロピー駆動型のプロセスでMDM2に直接結合することが確認された。共同研究で、野生型p53を持ち,Mdm2遺伝子が増幅しているヒト骨肉腫細胞株を用いた生物学的活性試験の結果,これらのペプチドはp53-MDM2/MDMX相互作用を阻害し,細胞内のp53機能を救済できることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)は生体内の多くの機能制御や情報伝達に関与している。PPIを阻害する化合物の中でも,人工アミノ酸を含むペプチドミミックは,研究ツールや候補薬剤としての応用が期待され,注目を集めている。本研究の目的は、コンホメーションを固定した人工アミノ酸からなるペプチド模倣体(ペプチドミミック)は少ない残基数で安定な3次元構造をとることができ、また細胞膜透過性など物性を改善できる可能性がある。本研究から、わずか3残基の人工アミノ酸Abhからなるペプチドがタンパク質(p53)の部分構造を代替し、MDM2を阻害することが示された。また、シミュレーションによる結合モデル予測に基づくペプチドの構造改変により阻害活性や溶解性を向上させたいくつかのペプチドを見出した。さらに、野生型p53を持ち,Mdm2遺伝子を増幅させた細胞を用いた実験で、Abhペプチドが細胞内でp53-MDM2/MDMX 相互作用を阻害し、細胞内のp53の活性を回復させることを共同研究により示した。タンパク質レベルの阻害活性と細胞試験における活性の順序がペプチドの間で同じであったことは、Abhペプチドが細胞膜を通過し阻害活性を持つことを強く示唆しており、Abhペプチドの有用性を示す重要な結果と考える。 上記の結果を論文化した(Su, A. et al. Chem. Pharm. Bull., in press)。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の3個の課題に取り組む予定である。 1 人工ヘリックスペプチドを用いたタンパク質-タンパク質相互作用阻害化合物の創製:現時点でAbhペプチドのp53-MDM2/MDMX 相互作用阻害活性は数十マイクロMであり、さらなる改善の余地がある。今年度に共同研究で行なっていただいた熱力学的解析から、Abhペプチドはエントロピー駆動型のプロセス、すなわち疎水性相互作用を主とする相合作用によりMDM2に結合することが示唆された。今後は、よりタンパク質選択的な阻害剤の開発を目標に、側鎖や末端に水素結合可能な親水性置換基を導入したペプチドを合成したいと考えている。 2. 外的刺激によりペプチドコンホメーションスイッチングを起こすアミノ酸の創製:現在までに、光照射などの外的刺激によりアミド結合がシス体からトランス体に完全に反転を起こすベンズアニリド誘導体を開発した。これをアミノ酸ユニットに応用し、短いペプチドのコンホメーションスイッチングに応用可能なことを示した。今後は、ユニットを10残基以上の長さの天然アミノ酸ペプチドに導入し、外的刺激によるコンホメーション変化を調べる。 3. 環骨格を持つアミノ酸を天然型のアミノ酸からなる環状ペプチドに組み込み、コンホメーションが固定されるかを調べる。また、ユニット導入により細胞膜透過性が向上するかどうか調べる。親水性の高いアミドプロトン(NH)が分子内で水素結合を作ることがペプチドの細胞膜透過性に重要であるという報告がある事から、人工の環状ペプチドによって分子内水素結合をとるペプチドをデザイン、合成し、細胞膜透過性を調べる。
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