2021 Fiscal Year Research-status Report
リン酸環状混合酸無水物の合成と脱水的触媒反応への応用
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20K06971
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
牧野 一石 北里大学, 薬学部, 教授 (20302573)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 環状リン酸無水物 / 触媒反応 / 脱水反応 / 典型元素 / アミド化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初から計画していたナフタレン環の1位および8位へのリン酸基の導入については,ニッケル錯体を触媒として利用した1,8-ジブロモナフタレンとホスファイトとのクロスカップリング反応によって,再現性良く芳香環へ2つの5価のリン原子を導入できることを見出した。このとき反応機構については不明であるが,幸いなことに目的とするリン酸エステルの無水物が主生成物として直接得ることができた。なお,ナフタレン環上に構築された6員環構造をもつリン酸無水物結合は水分に対しても安定で,空気中で十分取り扱うことが可能であった。次に得られたリン酸無水物の触媒としての利用可能性を探るために,カルボン酸とアミンとの分子間アミド結合形成反応に適用した。溶媒や反応温度に関する検討を中心に行ったが,残念ながら目的とするアミドは得られていなかった。この原因として,用いた6員環構造をもつリン酸無水物が化学的に過度に安定であるためと考え,リン酸エステル(ホスホナート)をアルキル化したホスフィナートへと変換したリン酸無水物誘導体の合成,ならびに環歪みが生じると考えられる5員環構造をもつリン酸無水物の合成を計画した。現在のところ,前者のホスフィナートへと変換については,リン酸エステルに対する金属アルキル化試薬を用いた求核置換反応による方法やアルキル基があらかじめ導入されたリン試薬を用いたクロスカップリング反応について検討をしている。また,後者については1,2-ジブロモベンゼンを母核として,ニッケル触媒によるホスファイトとのクロスカップリング反応を行ったところ,2つのリン原子が隣接する立体的にかさ高いホスファートの合成を行うことができた。前述のナフタレン環へのリン酸基の導入を異なり,ベンゼン環上へのリン酸基の導入ではリン酸無水物が直接得られなかったため,今後,リン酸無水物への変換が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
合成法が一般的に確立されていないリン酸無水物であるが,1段階でのナフタレン環1位および8位への2つのリン酸基の導入およびリン酸無水物結合の構築法を見出すことができた。このようにニッケル触媒によるクロスカップリング反応によってリン酸無水物が直接得られることは初めての知見であり,今後の新たな研究課題として,反応機構の解明や基質適用範囲の検討などを行うことで,反応の一般性について検討していくことを予定している。得られたナフタレン環上に6員環リン酸無水物結合を有する化合物であるが,化学的には予想以上に安定であることが確認できており,実験的に取り扱いやすいことが確認できている。一方で,ベンゼン環上に隣接してリン原子が存在する5員環リン酸無水物の合成についても検討しており,縮合剤による環状リン酸無水物結合が形成されることが確認できているが,遊離のリン酸基がさらに縮合剤と反応した副生成物が得られてくることが問題となっている。用いる縮合剤の検討や副生成物を加水分解することで,目的の5員環リン酸無水物への変換法を確立することが必要である。現在,合成に成功したナフタレン環上に6員環リン酸無水物結合を有する化合物については,カルボン酸とアミンとの脱水反応を伴う直接的アミド化反応の触媒としての利用を試みた。溶媒や反応温度について実験条件を詳細に検討しているが,目的とするアミドを得るに至っていない。これは 6員環リン酸無水物結合が化学的に安定であり,反応性に乏しいことが理由であると想定している。このため,リン酸無水物の反応性を向上させる目的で,マグネシウム塩やカルシウム塩などのルイス酸の添加した条件を試みることを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
ナフタレン環上に6員環リン酸無水物結合を有するリン酸エステル誘導体については,化学的に安定で取り扱いやすいものの,一方で触媒として利用するには反応性が低いことが問題となるという知見が得られたことから,この点に注視して研究を推進していく必要があると考えている。具体的には既存の化学量論量の縮合剤として知られているT3Pはリン酸エステル結合を有しておらず,プロピル基がリン原子に直接結合した炭素―リン結合を有する化合物である。そこでこれを模範とすれば,リン酸エステル(ホスホナート)をアルキル基で置換した環状リン酸無水物誘導体がカルボン酸活性化作用を有し,アミド化触媒として機能することが期待できる。そこで,リン酸エステルに対する金属アルキル化試薬を用いた求核置換反応による方法やアルキル基があらかじめ導入されたリン試薬を用いたクロスカップリング反応による方法によって,炭素―リン結合を有する環状リン酸無水物の合成を行うことを予定している。なお,今回合成に成功したリナフタレン環上に6員環リン酸無水物結合を有するリン酸エステル誘導体については,合成の簡便さや取り扱いにおいて優れた物性を示すことから,Beckmann転位などの分子内反応への触媒としての利用についても検討をしていきたいと考えている。また,触媒的アミド化反応については,マグネシウム塩やカルシウム塩などのルイス酸の添加することで,リン酸無水物の反応性を向上させることを予定している。 これまでに芳香環上にリン酸無水物を構築することに成功をしているが,触媒構造の多様性をもたせる点においては,sp3炭素からなる多環性脂肪族化合物を母核とした有機リン酸無水物分子についての合成を現在進めている。
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Causes of Carryover |
消耗品の残額として1円が差引額となった。1円については,次年度の消耗品の購入に充てる。
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Research Products
(16 results)