2021 Fiscal Year Research-status Report
Physiological roles of serotonin as a biological reductant
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20K06989
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
三浦 隆史 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (30222318)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | セロトニン / 銅輸送 / 酸化還元 / 酸化ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
ドパミンは、その前駆体であるチロシンと比べて酸化されやすい物質である。酸化により生じたキノン体、セミキノン体やそれらのラジカルには活性酸素種発生を促す細胞毒性の強い物質も含まれる。また、ドパミンの酸化は2価銅イオン[Cu(II)]により顕著に促進されるが、結果として生じる1価銅イオン[Cu(I)]も、Cu(II)に再酸化される際に活性酸素種発生の原因となる。トリプトファンを前駆物質とするセロトニンも、ドパミンと同様の危険性を持つ。脳内で神経伝達物質として利用する物質を、安全なアミノ酸から酸化ストレスの発生源となる危険性の高い物質に敢えて変換するのには理由があると思われるが、合理的な説明はされていない。本研究では、神経伝達物質としてではなく銅還元物質としてのセロトニン、ドパミンに着目し、その生理的役割、神経変性疾患との関わりなどを明らかにし、脳内に存在する既知物質の未知の役割に光を当てる。これまでに行った研究の内容は以下のとおりである。 (1) セロトニンの銅還元物質としての生理的役割を明らかにするため、膜結合銅輸送タンパク質Ctr1のCu(I)結合部位に相当するMet rich モチーフのアミノ酸配列と機能の関係を調べた(2020年度)。 (2) ドパミンと銅の酸化還元に伴い発生する酸化ストレスの抑制に関わる生体内物質の探索を行い、内在性オピオイドペプチドであるエンドモルフィンがその候補であることを示した(2021年度)。 これらの研究成果は、銅の恒常性、脳内酸化ストレス防御系、さらには酸化ストレスに起因する多くの疾患の発症メカニズムを解明する上での重要な基礎となるため、本研究の新規治療薬開発に対する影響は極めて大きいと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドパミンはCu(II)添加によりキノン型の構造を持つアミノクロムに変化し、その後、さらなる還元・酸化反応により種々の物質を経て黒色色素ニューロメラニンに至る。後者の過程では、活性酸素種の発生を促すセミキノンラジカルが生じることが知られる。一方、最近の我々の研究により、内在性オピオイドペプチドであるエンドモルフィン1(EM1, Tyr-Pro-Trp-Phe)はTrp残基のインドール環などを利用したカチオン-π相互作用によりCu(II)、Cu(I)両者に対して結合することが示された。 2021年度は、EM1が、そのユニークな銅結合特性のため、ドパミンと銅の酸化還元反応を抑制する可能性について検証を行った。その結果、EM1はドパミンの酸化還元反応のうち、特にアミノクロムからニューロメラニンが生じる過程を強く抑制することが明らかになった。 EM1は配位結合ではなく、Cu(II)とCu(I)に対する選択性が低いカチオン-π相互作用で銅と結合する。本研究で見出されたニューロメラニン以降の酸化還元反応の抑制効果は、EM1がCu(II)とCu(I)の間の酸化還元を抑制することを示唆する。一般に、アミノ酸やペプチドなどの低分子物質は、Cu(II)またはCu(I)のいずれかに対して親和性を持つ。Cu(II)に対して選択性を持つキレーターに結合していたCu(II)がCu(I)に還元されると、そのCu(I)はキレーターから脱離し、活性酸素種の発生を促す。しかし、EM1のようなCu(II)とCu(I)両銅イオンに結合するペプチドは、酸化状態が変化しても銅イオンを保持し続けることができるため、酸化ストレスの発生原因となる無秩序な銅の酸化還元を抑制し、生体内抗酸化系に寄与する可能性がある。 上記の成果が得られたため、本研究は当初の予定通りに進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行った研究により、Ctr1はセロトニンによる細胞外Cu(II)の還元を促進することで銅の細胞内取り込みを行っている可能性が示されたが、セロトニンやドパミンによるCu(II)還元を促進する物質は他にも存在する可能性がある。本研究により見出された重要な知見は、Cu(I)に対する安定化能を持つ生体物質、即ち銅の酸化還元電位を上昇させる生体物質は、セロトニンによるCu(II)還元を促進する可能性を有することである。即ち、脳内には、単独では酸化還元不活性であるにも関わらず、セロトニンによるCu(II)還元を制御する物質が存在すると予想される。2022年度は、これらの物質の未知の役割を解明するための研究を実施する。具体的には、セロトニン、ドパミンと協調して銅の酸化還元に関与する可能性を持つ物質として、特にアミロイドβペプチド(Aβ)とコレシストキニン(CCK)に注目し、以下の検討を行う。 (1) Aβは単量体では無毒であるが、会合状態では細胞毒性を持ち、アルツハイマー病の原因物質となることが知られている。会合状態の異なるAβペプチドがセロトニンによるCu(II)還元を促進する能力を比較し、セロトニンが銅還元作用を有することの負の側面として、神経変性における細胞障害と関わる可能性を検証する。 (2)ペプチドホルモンであるCCKのうち、脳内に豊富に存在するCCK-8 は、そのアミノ酸配列(Asp-Tyr-Met-Gly-Trp-Met-Asp-Phe)から、芳香族残基のカチオン-π相互作用、およびメチオニン残基の配位結合により銅イオン、特にCu(I)に対して親和性を持つと予想される。CCK-8がドパミンと銅の酸化還元反応に与える影響などを調べ、脳内にCu(I)安定化物質が存在する理由を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大のため研究の実施ペースを落とさざるを得ない時期があったこと、および学会がオンラインとなり、交通費を使用しなかったことにより次年度使用額が生じた。研究の進捗度合いへの影響は軽微であったが、実施に遅延が生じている研究項目は2022年度に行う予定で、前年度の未使用額分はペプチドその他試薬類の購入に充てられる。
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