2021 Fiscal Year Research-status Report
重症筋無力症に対する二重特異性抗体薬を用いた根治治療法の開発
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20K07019
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
森脇 康博 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 講師 (00392150)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
辻 祥太郎 群馬医療福祉大学, 医療技術学部, 教授 (30285192)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 重症筋無力症 / 二重特異性抗体 / ニコチン性アセチルコリン受容体 / メモリーB細胞 / CD3 |
Outline of Annual Research Achievements |
重症筋無力症(Myasthenia gravis : MG)は、神経筋接合部のシナプス後膜上にある幾つかの標的抗原に対する自己抗体の作用により、神経筋接合部の刺激伝達が障害されて生じる自己免疫疾患で、自己抗体の70%以上はニコチン性アセチルコリン受容体α1サブユニット(α1nAChR)に対する抗体である。また、その抗体のエピトープとしてWNPDDYGGVKやKVLLQYTGHIといったmain immunogenic region(MIR)が同定されている。現在のMG治療は全て対症療法であり根治的治療法は存在しない。根治のためには自己抗体のメモリーB細胞を駆逐する必要がある。最近、B細胞性がん細胞を駆逐する方法として細胞傷害性T細胞(CTL)を利用するCTL誘導二重特異性抗体(Bispecific T-cell Engager : BiTE)ブリナツモマブが上市された。ブリナツモマブは、B細胞上に発現するCD19に対する抗体とCTLを誘導するための抗CD3抗体(OKT)のsingle chain Fv(scFv)を接続したタンパクである。本研究では、MGの病因となる自己抗体産生メモリーB細胞を駆逐する方法として、上記BiTEを改良した医薬品の開発を目的とした。MIRを含む様々な構造のα1nAChR細胞外領域(α1nAChRex)とOKTのscFvを様々なリンカー(GS、PGGGGS、3xGGGGS、DKTHTGSなど)で接続したα1nAChRex-OKTタンパクの設計を行い、それぞれのタンパクの安定性、CD3及びα1nAChR抗体への反応性を確認した。また、MG動物モデルを用いたα1nAChRex-抗CD3抗体の薬効評価を行うためにラットT細胞を増殖・活性化させる抗ラットCD3抗体の開発を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
第一膜貫通領域の23アミノ酸上流までのα1nAChRexをPGGGGSリンカーでOKTに接続したα1nAChRex-OKTを恒常的に発現するRK13細胞を樹立した。得られたα1nAChRex-OKTタンパク質を、抗α1抗体(mAb35)を産生するハイブリドーマTIB-175細胞、ヒトCD3を発現するJurkat細胞を用いてフローサイトメトリーでの結合性の評価を行った。Jurkat細胞との結合は確認できたが、TIB-175細胞との結合は確認できなかった。TIB-175細胞との結合が確認できなかった一因として、α1nAChRex-OKTタンパク質濃度が低いことが考えられた。α1nAChRex-OKTは構造的問題により、低いタンパク産生効率/安定性が認められる。そこで、α1nAChRex-OKTタンパク質の産生効率などを改善すべく、リンカー長の変更やα1nAChRex構造の変更を行った。α1nAChRex構造の変更に関しては、MIRを含むα1nAChRexの最小化や、分子構造に影響を与えると考えられる配列の変異導入、nAChRが5量体を形成することから、抗体の重鎖定常域1と軽鎖定常域を用いた2量体化などを試みた。結果、MIRを含む最小配列で、それぞれのエピトープの中間部位に変異を導入したα1nAChRexをDKTHTGSリンカーでOKTに接続した融合タンパク質(α1nAChRex改変-OKT)で培養上清への高いタンパク産生と、Jurkat細胞への結合を確認することができた。次に、タンパク質医薬品産生に多用されているCHO DG44細胞を用いて、α1nAChRex改変-OKTを安定的に産生される細胞を樹立した。この細胞の培養上清より精製したα1nAChRex改変-OKTを用いて、TIB-175細胞への結合をフローサイトメトリーにより確認した結果、結合を確認するに至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記した通り、α1nAChRex改変-OKTタンパクの安定産生系を構築するに至った。一方で、α1nAChRex改変-OKTタンパクのTIB-175細胞への結合を確認することはできなかった。TIB-175細胞が形質膜上にラット抗体を発現していることは、ラット抗体の軽鎖を認識する抗体(MRK-81)を用いたフローサイトメトリーによる解析で確認している。TIB-175細胞の産生する抗α1抗体であるmAb35はMIRを認識することが報告されていることから、今回、申請者が作製したMIRを含むα1nAChRex改変-OKTタンパクでは、タンパク質濃度による問題では無く、mAb35により認識されない可能性が高いと考えられる。既に実用化が検討されているα1nAChRex-Fcに関しては、TIB-175細胞への結合と細胞障害活性が確認されている。抗体によるエピトープ認識には立体構造が大きく影響しているため、更なるα1nAChRex配列の改変を進める予定である。また、細胞障害活性の比較、TIB-175細胞への結合の参考のためα1nAChRex-Fcタンパク質の精製も合わせて行なう予定である。更に、TIB-175細胞より精製したmAb35を用いたELISAを確立することで、より効率的なmAb35により認識されるα1抗原のスクリーニング系の構築を行う。 抗ラットCD3モノクローナル抗体の樹立を進めている。しかしながら、現在、細胞膜上のCD3を認識する抗ラットCD3抗体の樹立には至っていない。細胞膜上のタンパク質を認識する抗体を得るには、擬似的な形質膜を再現した免疫法が有効である。実際に、申請者は他の膜タンパク質に対するフローサイトメトリーに用いることが出来る抗体を、擬似的な形質膜を再現した免疫法を行うことで樹立に成功している。この方法を用いて、現在、CD3抗体の樹立を目指している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、大学での研究活動に制限が設けられたため。
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Research Products
(2 results)