2020 Fiscal Year Research-status Report
EP受容体サブタイプ発現量バランスの崩壊により不可逆化するがん悪性化機構の解明
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20K07084
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
藤野 裕道 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (40401004)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロスタノイド受容体 / 結腸がん |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では不可逆的ながん増悪機構の一端を明らかにすることを目的とし、プロスタグランジンEP2受容体およびEP4受容体の発現量バランス比の変化による細胞機能への影響の解析や、がん悪性化の不可逆性を決定づけるメカニズム、そして正常から、がん化へと変化する分水嶺となるクリティカル・ポイントを明らかにすることを目的としている。これまで我々は、正常大腸上皮細胞の恒常性(ホメオスタシス)の維持を担うEP4受容体の過活性化が、発がん要因の一つである可能性を提案してきた。しかしながらEP4受容体の発現量は可逆的に変化するため、EP4受容体過活性化によるホメオスタシスの破綻だけでは、がん悪性化の不可逆的なステージ変化を説明できない「問い」が生じた。そこで、ビッグ・データなどを用いた予備解析を行った結果、EP2受容体発現量の減少が、死亡率上昇に寄与する可能性を考えるに至った。2020年度は、炎症反応を担うプロスタグランジンE2(PGE2)の代謝産物である15-keto-PGE2のEP2受容体およびEP4受容体への反応性の違いの解析を通して、EP2受容体の役割の類推を試みた。その結果、相対的にPGE2への親和性が高いEP4受容体により引き起こされた炎症反応は、15-keto-PGE2へと代謝されることで、この代謝産物への親和性が比較的高いEP2受容体へと、リレーのようにシフトして収束する可能性を見出した(J Biol Chem, 2020)。すなわち何らかの理由でEP2受容体発現量が減少すると、EP4受容体からEP2受容体へのシグナルが切り替えられない可能性が考えられる。EP2受容体がcAMPの供給を介して炎症反応を収束させていると考えると、過剰な炎症反応とも考えられるがんの悪性化の一要因は、EP2受容体発現量の減少により炎症反応が十分に収束できないことに起因している可能性が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、EP2受容体とEP4受容体の発現量バランスが変化することで引き起こされる影響の解析を試みた。本解析を進めるにあたり、PGE2代謝産物である15-keto-PGE2による、EP2受容体およびEP4受容体への反応性の違いを解析し、EP2受容体の役割の類推を試みた。その結果、PGE2はその親和性の高さから反応のスタート時にはEP4受容体へ作用するが、15-keto-PGE2へと代謝されることで、EP2受容体へと反応が引き継がれる可能性を見出した(J Biol Chem, 2020)。この時15-keto-PGE2はEP2受容体のcAMP系シグナルの完全アゴニストとして働くことも明らかとなったが、cAMPの産生亢進は細胞増殖を抑制することから、持続的なcAMPの産生維持が細胞増殖をとめ、それがホメオスタシスの維持につながる可能性を示すことができた。正常な大腸細胞には、EP2受容体とEP4受容体の両方が発現していることが知られているが、両受容体ともGs型タンパク質に共役している受容体であるため、その役割分担についての詳細は不明であった。しかしながら、本研究の結果からEP2の発現量が減少すると、EP2 が担うべき十分なcAMPが供給されないだけではなく、EP4受容体が相対的に活性化し続けることで、我々がこれまでに明らかにしたEP4受容体が担う細胞増殖を亢進するextracellular signal-regulated kinases/cyclooxygenase-2の活性化が持続し収束しない可能性が考えられた。すなわち、EP4受容体からEP2受容体へのシグナルが切り替えられない可能性を明らかとした2020年度の研究から、EP2受容体の発現量の減少が、がん悪性化の一要因である可能性が実際の実験を通して強く示唆することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
EP2受容体とEP4受容体の役割の違いをもう少し掘り込んで解析するのと並行して、EP4受容体情報伝達系がホメオスタシス維持から最初期の発がん発症へと切り替わる分水嶺を明らかにしたいと考えている。大腸がんでは、ワルブルグ(Warburg)効果と呼ばれる、がん細胞特異的現象の亢進が知られている。これは好気的条件下で解糖系によるグルコースの乳酸への代謝を介したATP合成系を優先させるシステムであるが、70%以上のヒトがん細胞は、正常細胞に比べて多くのグルコースをphosphatidylinositol 3-kinase (PI3K) 経路の関与により取込むことが知られている。これまでに我々はEP4受容体がPI3K系を活性化することを明らかとしてきたことから、EP4受容体の活性によりグルコースの取込みが亢進する可能性が考えられる。そこで、2021年度は内因性にEP4受容体を発現しているヒト初期結腸がんHCA-7細胞を用いて、PGE2刺激時の細胞内へのグルコース取り込み量の変化、そして解糖系が亢進していることの指標として乳酸産生量の変化について、市販の測定キットなどを用いて測定し、がん細胞の代謝系へのEP4受容体の影響を明らかにして行きたい。さらにワルブルグ効果が亢進するとグルコースは乳酸へと代謝される。そのため不足するオキサロ酢酸産生の基質として使用するグルタミンの取込みを促進させるグルタミノリシス(glutaminolysis)が引き起こされることも知られていることから、グルタミンの取り込みについても検討する予定である。すなわち、EP4受容体の活性化に伴う代謝系の継時的な変化に焦点を当てて明らかにすることで、がん悪性化の不可逆性を決定づけるメカニズムや、その分水嶺となるクリティカル・ポイントを解明したいと考えている。
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Causes of Carryover |
日本薬学会141年会参加費(1万円)および第94回日本薬理学会参加費(1万円)の支払いが4月になったため。
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Research Products
(7 results)