2020 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of drug therapy targeting metabolic reprogramming for glioblastoma
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20K07194
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
江田 岳誉 新潟大学, 医歯学総合病院, 薬剤師 (90772038)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
棗田 学 新潟大学, 脳研究所, 助教 (00515728)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | glioblastoma / mTOR / microenvironment |
Outline of Annual Research Achievements |
原発性脳腫瘍の中で膠芽腫は悪性度が高く、患者の生命予後は不良である。本研究の目的は膠芽腫に対する効果的な薬物療法を提示することである。研究は膠芽腫において報告されている遺伝子変異のうちPI3K/Akt/mTORシグナル伝達に着眼して実施した。mTORはまた、糖や酸素濃度などの栄養センサーシグナルとしての役割も担うことも知られる。本研究は、mTORシグナルと腫瘍維持間にあるクロストークの解明を目的に、がんの微小環境、代謝リプログラミングの観点から疑問点解決に臨む。研究は以下のテーマに分けて実施した。 1. 膠芽腫に対するクリンダマイシンの薬効評価:先行研究で薬剤スクリーニングを実施し、抗菌薬クリンダマイシン(CLD)が膠芽腫培養細胞株(U251MG, T98G, LN229, NGT41)に対し、分化増殖を抑制することを見出した。PI染色による細胞周期解析では、CLDはG0/G1期で活動を停止することもわかった。 2, mTORシグナルと腫瘍化:CLDを用いて膠芽腫に対するmTORシグナルへの影響を調べた。イムノアッセイの結果、CLDはp70S6Kのリン酸化を制御した。CLDはmTORC1経路に作用し、新規タンパク合成や翻訳後調節に関与している可能性がある。 3. 代謝リプログラミングとmTORへの影響:がん細胞は飢餓時におかれても嫌気的呼吸へと代謝様式を変更し、異常増殖を維持する。このような代謝シフトが腫瘍形成増大にどのような影響を与えるのか調べるために、細胞に対し過酷条件を負荷することでがんの微小環境を実験的に作りだす。その場合の細胞側の応答因子を抽出し、標的治療を試みる。培養系にGLUT, SGLTなどの阻害剤やTCAサイクル阻害剤を暴露し、cell viability assayで評価を行った。このほか、低酸素暴露時の細胞内応答についても調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で膠芽腫に対する効果的な薬物療法を提示する。膠芽腫に対する薬剤スクリーニングの結果から、抗菌薬クリンダマイシン(CLD)が膠芽腫培養細胞の増殖を制御することがわかった。薬効を複数のヒト由来膠芽腫細胞株において検証すると、CLDは想定した通り単独で細胞の分化、増殖を濃度依存的に抑制した。次に、増殖に関わるようなCLDの標的分子を探ることを試みた。その結果CLDはmTORシグナル抑制や細胞周期へ影響を与えることなど、従来までに知られる抗菌作用とは別の潜在的な作用を有することが判明した。 さらに当該年度では、到達目標であった代謝リプログラミングモデル作成に注力し、mTORと腫瘍形成維持の関係解明に取り組んだ。代謝リプログラミングモデルはWarburg説に基づき、薬剤処理や物理的手段によってがん細胞を飢餓状態に陥らせ、強制的に解糖系優位の代謝シフトを作り出す実験系である。 膠芽腫細胞に対してグルコースの細胞内取り込みを抑制する目的でGLUTやSGLT阻害などのグルコース輸送体を阻害するような薬剤を暴露すると、一部の薬剤では細胞の増殖が顕著に抑制される傾向が見られた。現在、この現象が解糖系の亢進によるものなのか乳酸やATPの定量を試みているが、再現性のある結果が得られず、実験結果は議論の必要がある。一方で、ヒト由来膠芽腫細胞株を1%低酸素環境下で培養することにより、細胞に低酸素環境を与える代謝実験系を作成する取り組みを開始した。これにより解糖系を構成する一連のタンパク質の発現変化を捉えることが可能になる。
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Strategy for Future Research Activity |
今日まで研究課題の進捗が遅れている主な原因は代謝リプログラミングモデルの作成に難渋していることがあげられる。warburg説に基づき、細胞内にグルコース取り込みを阻害する目的で数種の薬剤を細胞に曝露したが、代謝がシフトして解糖系優位となるような明確な科学的根拠(酸素消費減少と乳酸産生増加など)が得られていない。研究を加速させるためには、低酸素環境下の培養実験系で安定的に解糖系関連遺伝子群の発現を誘導し、標的分子を捉えるような研究も並行する方針である。 一方、我々はこれまでの研究で類上皮神経膠芽腫患者に由来するNGT41細胞株を樹立し、皮下腫瘍モデルを作成している。本研究においてこのような腫瘍モデルを用いることで腫瘍組織のレベルでwarburg説の検証を行うことが可能である。固形がんにおいては増殖した腫瘍とそれを養うのに必要な栄養血管網の形成との間にギャップが生じ、腫瘍内部では壊死に陥った腫瘍組織が観察されるという。つまり低酸素誘導性の転写因子HIF-1に対する阻害剤や血管新生阻害剤bevacizumabなどのマウスに投与してその増殖スピードを比較することで代謝シフトの謎が解明できる可能性がある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、今年度は細胞培養の実験に集中して取り組んだため、研究費は必要な培養液やイムノアッセイに必要な抗体などの消耗品購入に多くを計上した。また研究進捗に遅れが生じ、予定していた低酸素実験実施にたどり着けず、新規で購入した機器類が少なかったことも挙げられる。今年度は低酸素実験に必要なチャンバーもしくは簡易型低酸素実験キットの購入を予定する。またヌードマウスを用いた腫瘍の異種移植実験を開始するため差額はこのような研究費に充当する。コロナ禍により学会発表ができなかったことで、旅費はそのまま残っている。
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