2020 Fiscal Year Research-status Report
癌ゲノムデータベース解析に基づいた癌幹細胞における新規解糖系制御機構の解明
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20K07207
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
秋本 和憲 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 教授 (70285104)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 層別化 / 公共の癌ゲノムデータ / ALDH1陽性乳癌幹細胞 / 解糖系 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規解糖系制御機構(本機構)について、3つの課題の解析を進めた。(1)本機構の詳細、(2)癌幹細胞代謝系における本機構の位置付け、(3)癌における本機構の意義付けである。 (1)は、PKCλ依存的な転写調節因子のリン酸化部位の恒常的変異体(SE)と非リン酸化型変異体 (SA)の安定発現細胞を用いた実験から、プロテアソーム阻害剤によりSAタンパクが蓄積し、SEタンパクは変化しないことから、PKCλ依存的なリン酸化がプロテアソーム分解を回避するのに寄与する結果を得た。(2)は、ミトコンドリア膜電位の解析を進め、本機構が解糖系の亢進に関与し、ミトコンドリア機能の抑制に関わることを示す結果を得た。また、PKCλと解糖系分子GLO1が、乳癌で高発現したALDH1陽性乳癌幹細胞豊富な後期ステージ乳癌が予後不良であり、共同して乳癌の進行に関与することを明らかにした(Oncology Letters in press)。このように、ALDH1陽性乳癌幹細胞の代謝系におけるPKCλの位置付けが進んだ。(3)に関しては、公共の癌ゲノムデータを用いて、PKCλとALDH1A3の遺伝子発現が相関すること、ともに高発現した後期ステージ乳癌は予後不良であることを明らかにし、PKCλがALDH1A3陽性乳癌幹細胞の生存、細胞運動能、腫瘍形成や非対称分裂に重要な役割を果たすことを明らかにした(PLoS ONE, 2020)。また、公共の癌ゲノムデータ解析から派生した成果としてリン酸トランスポーターであるSLC20A1が、claudin-lowとbasal-like型乳癌サブタイプの予後予測因子、治療選択のバイオマーカー及びALDH1A3陽性乳癌幹細胞の分子標的となりうることを明らかにした(Anticancer Res. 2021)。このようにして、乳癌患者の新たな層別化の可能性が進んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PKCλ依存的な癌幹細胞における新規解糖系制御機構(本機構)について、設定した3つの課題の解析を進めた。(1)本機構の詳細に関しては、新型コロナ感染拡大による研究施設の封鎖や計画を中心的に遂行する予定のポスドクの来日延期(2021年5月20日来日)などで、計画の進捗が遅れたが、封鎖が解除されてから研究室の大学院生に分担して進めることで、研究実績概要に示すように計画が遂行できた。(2)癌幹細胞代謝系における本機構の位置付けについても、(1)に示すように計画の進行が遅れたが、同様に大学院生と計画を進めることで、進展がみられたとともに、関連する論文(Motomura et al., Oncology Letters in press)が受理された。(3)癌における本機構の意義付けは、新型コロナ感染拡大による研究施設の封鎖中も、自宅で解析可能な癌ゲノムデータを用いたデータサイエンス解析に集中した分、当初の計画以上に進展した。研究施設の封鎖解除後に再開した実験のデータを加え、派生して得られた研究成果も含めて3報の論文発表を行うことができた(Nozaki et al., PLoS One. 15 e0235747 (2020): Sato et al., Anticancer Res. 40 2777-2785 (2020): Onaga eta al., Anticancer Res. 41, 43-54 (2021))。このように、当初は新型コロナ感染拡大によって、計画の進行が遅れたが、封鎖解除後にカバーすることにより、計画の遅れを取り戻すことができてきている。そこで、概ね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画を変更することなく、当初の予定通り3つの課題解決に取り組む。具体的には、課題(1)に関しては、樹立した各種変異体安定発現株を用いて、本機構の詳細な分子機構の解明を進めるとともに、作成したリン酸化抗体による評価も進める。課題(2)に関しては、各種変異体安定発現株における解糖系の変化と酸素消費量の変化をシーホースを用いて解析し、本機構の癌幹細胞代謝系における位置付けの解明を進める。課題(3)に関しては、引き続き、公共の癌ゲノムデータ解析を進め、乳癌以外の癌種における本機構の意義付けの解明を進める。本研究を代表者に加え、助教(新任)1名、ポスドク(新任)1名と大学院生2名のチームで遂行する。
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