2020 Fiscal Year Research-status Report
肝OATP内在性基質の体内動態メカニズム解析による生理学的薬物速度論モデルの確立
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20K07209
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Research Institution | Yokohama College of Pharmacy |
Principal Investigator |
吉門 崇 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (70535096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉山 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, 特別招聘研究員 (80090471)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トランスポーター / 内在性基質 / 薬物相互作用 / 生理学的薬物速度論モデル / バイオマーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
肝臓に発現するorganic anion transporting polypeptide 1B1/1B3 (OATP1B1/1B3) はアニオン性薬物の肝取り込みを担っており、多くの薬物間相互作用(DDI)に関与することから、創薬および臨床で重要視されている。近年、OATP1B内在性基質はDDIを予測するためのバイオマーカーになり得ると考えられている。本研究では、OATP1B内在性基質の一つであり、ヘム生合成中間代謝物のコプロポルフィリン(CPs)に着目し、生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用いてDDIを予測する方法論を確立する。CPsの生合成への影響、分子種(CP-IおよびCP-III)間の体内動態の違い、排出トランスポーター(multidrug resistance-associated protein: MRP2等)の寄与等を明らかにすることで、初めて精緻なPBPKモデルを構築することができ、正確なDDI予測が可能になる。 令和2年度は、複数の臨床データ(CP-I血中濃度推移)を矛盾なく説明可能なPBPKモデルのパラメータセットを得るために、新規パラメータ推定法であるCluster Gauss-Newton Method (CGNM)(Aoki et al. Optim Eng 2020)を用いた解析を実施した。CGNMは、パラメータ初期値の範囲を設定して多数のパラメータセットを発生させて計算を開始し、候補解を得ることができる手法である。OATP1B阻害薬リファンピシン(RIF)によるCP-Iへの影響を明らかにした2つの臨床試験(Takehara et al. Pharm Res 2018およびMori et al. CPT 2020)データを解析したところ、CP-Iの肝固有クリアランスと生合成速度、RIFによるOATP1B阻害定数は類似した狭い範囲で得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CGNMを用いた解析により、2つの臨床データ(CP-I血中濃度推移)を矛盾なく説明可能なパラメータセットを得ることができた。CP-Iの肝固有クリアランスと生合成速度、RIFによるOATP1B阻害定数の収束値は狭い範囲で得られたことから、これらがRIFによるCP-I血中濃度推移の変化を説明するのに鍵となるパラメータであることが示唆された。今回CGNMで9個ものパラメータを未知パラメータとし、広い範囲の初期値を設定して自動的に計算することができた。これはidentifiableなパラメータが何であるのかを明確に示す方法論であることを実証するものである。実際、内因性バイオマーカーの動態パラメータ(クリアランス、生合成速度など)の概略値を実験的に示すことの困難さを考えると、本例のようなtop-down解析法は今後多くのバイオマーカー解析にとって重要な手法になるものと期待できる。 一方、CP-I体内動態へのMRP2の寄与等は、上記CGNMを用いた血中濃度解析でも明らかにならなかった。肝臓においてMRP2はCP-Iの胆汁排泄を担っていることから、肝臓中濃度にはより直接的に寄与するはずである。また、遺伝的にMRP2の機能が低下する疾患(Dubin-Johnson syndrome)においては、尿中におけるCP-I/(CP-I + CP-III)濃度比が変化することが報告されていることから、mrp2欠損ラット(EHBR)を用いた解析が有用であると考えた。令和2年度までに動物試験(CP-IもしくはCP-IIIを投与するマスバランス試験)を実施し、血中および肝臓中濃度、胆汁および尿中排泄量の測定を終えており、現在はPBPKモデルを用いた解析を進めている。 さらに、CP-IとCP-IIIの生合成に関わる代謝酵素(UROD等)の変動を明らかにするために、in vitro試験系を構築し検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
CP-IおよびCP-IIIの詳細な体内動態を明らかにするためのラットを用いたマスバランス試験結果のPBPKモデル解析においては、血中および肝臓中濃度、胆汁および尿中排泄量を同時に説明可能なパラメータセットを見出す必要がある。当初は非線形最小二乗法に基づいたパラメータ最適化法(従来法)による解析を試みたが、適切な初期値を推測できなかったために、候補解を得ることが容易ではなかった。上記のようにヒトにおけるCP-I血中濃度解析でCGNMの有用性が示されたことから、今後はラットにおけるCP-I, IIIのマスバランス試験にもCGNMを適用し、解析を進めることとする。その際に、EHBRにおいては肝臓内→血中へのbackflux(MRP3およびMRP4等による)が亢進している可能性が考えられるため、モデルに組み入れて検討を行うこととする。MRP3およびMRP4の機能亢進が示唆された場合には、細胞膜ベシクルを用いた輸送実験を行うとともに、ラット肝臓におけるタンパク質発現量の検討も併せて行う。 また、CP-I, IIIの生合成に関わる代謝酵素(UROD等)のin vitro試験系を構築する上で、URODの直接的な基質となるuroporphyrinogenが必要となるが、その不安定さのためか市販されていない。Uroporphyrinを還元してuroporphyrinogenを得る手法(Pd/C還元法)については報告されているため、UROD代謝を評価する試験系に最適な形で取り入れて検討を進める。 さらに、RIFの反復投与によるOATP1Bの誘導はin vitro実験の結果からは論争の的となっているが、MRP2の誘導はポジティブな報告が複数なされている。今後、RIFによるOATP1B/MRP2の誘導能を定量的に明らかにし、PBPKモデルに組み込むことで、阻害・誘導の複合的な予測も進めていく。
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Causes of Carryover |
令和2年度は新型コロナウイルス感染拡大防止により、研究機関(横浜薬科大学臨床薬理学研究室)における実験の実施に制限が生じた。そのため、コンピュータを用いた解析(PBPKモデル解析)を重点的に実施したことにより、物品費としての使用が抑えられた。また、学術学会参加のための国内出張がなかったため(代わりにオンラインで参加)、出張費も抑えられた。次年度は、in vitro実験(UROD代謝実験およびOATP1B/MRP2誘導実験等)を多数実施しデータを取る予定であることから、これらを実施可能な物品費を計上する。また、本研究課題の成果報告を複数の国内学会で行う予定であるため、これらの旅費を計上する。併せて論文の英文校閲および投稿費用(オープンアクセス費用を含む)も計上することから、次年度使用分と次年度請求分を併せた金額が必要である。
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Research Products
(1 results)