2020 Fiscal Year Research-status Report
子宮内ライフ観察を用いた頭部形成機構の研究:脳原基内外の細胞の会合と協働
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20K07224
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Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
田崎 加奈子 (齋藤加奈子) 藤田医科大学, 医学部, 講師 (50746906)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マウス頭部発生 / ライブ観察 / 神経幹細胞 / ニューロン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、マウス胎仔頭部のイメージングを通じて、研究対象が一定の範囲に限局される一部の組織だけに焦点を当てるのではなく、脳原基、血管、顎顔面、間充織、感覚器原基など、異なる種類の細胞群の時空間的関係性を定量的に明らかにすることを目指す。 これまで我々がおこなってきた「脳原基のスライス培養下でとらえてきた細胞たちのふるまい」は、バラバラにした細胞のプラスティック皿上の分散培養であったことに比べれば有用性が高いと思われる。しかし、胎仔の全身系と離断され、加えて頭部の間充織・脳膜原基、血管などとも分離された、かなり「単純化された」状況である脳原基のスライス培養には限界もある。 本来生存する一個体内で、どれだけ多種多様な異種細胞(スライス培養から除去されていた一部の脳原基以外の細胞)の動態が共存しているのか、という疑念から、「すべての異なる細胞タイプが欠落なく勢揃いしている」ことを強く意識して、「異種細胞群が勢揃いした状況での集団動態は、どうなっているのか」、「異なる種類の細胞たちは、どう 共存しているのか(協調的に暮らすなどしているのか?)」ということを、脳原基から頭部全体に視野を広げて、観察する。これより、脳原基の内と外との接点における多種細胞群の会合、あるいは協働の実態を、力学的な観点からもリアルタイムに記録する。 こうして得た「記録」は、脳のみならず、頭部のさまざまな器官形成のしくみの新しい理解をもたらすと予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
下垂体、視床下部等含む間脳は、頭蓋骨にとどまらず、多くの器官に守られるかの様に囲まれて存在する。特に下垂体は間脳組織のみから形成されるのではなく、口腔にある口腔外胚葉が間脳視床下部細胞からの刺激により袋状の下垂体原基を形成する事が知られている。これら異なる器官の会合・協働の様子を捕らえるため、まずは全体の核を可視化できるH2B-mCherryマウス用い、形態的な変化があらわれ始めるE9~10のマウス胎仔を用いライブイメージングをおこなった。その際に、組織の一部のみを取り出すのではなく、頭部全体の断面を可視化できる様にした。一例ではあるが腹側間脳と口腔外胚葉 及びその周辺の間葉系細胞の分裂や移動等の動態を捕らえる事ができ、また、それぞれ領域が互いに縄張り争いをするかの様に組織形態を変化させる様子を観察する事ができた。 さらに、力学的な観点からも考察した。発生初期、筒状の形態をしている脳は,発生が進むにつれて大脳,中脳,延髄、眼などに区分される様、それそれの領域が拡張しつつ、曲がり、折り畳まれ、突出するなど、全体として劇的な変化を見せる。この変化をもたらすには、細胞自身の遺伝子発現など内因的要因と、近隣細胞・組織から受ける外因的要因があると考えられる。その外的要因の一つとして 脳を囲む表皮・結合組織に注目して、脳、頭部組織の形態変化をリアルタイムで観察し、残留応力解放試験を行った。頭部全体を横断スライスした上で『脳部分だけ抜き取る』と、脳原基、脳室が広がるのに対し、表皮・結合組織が求心的に狭まった。これらの事から脳原基は、こうした『外からの狭まり・拘束』に抗しながら外に向けての成長・拡張を果たしていることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果をより確実なものにするため、引き続き『下垂体、視床下部等含む間脳と周辺組織』の観察に加え、体表面に近く比較的扱いやす『眼球・網膜と周辺の間充織や血管』などの感覚器や、脳室に対してそれぞれ「凹」、「凸」という対照的な形態を呈する『大脳の皮質部と基底核部、及び表皮・結合組織』など脳原基の 三次元的な関係性を観察する。これには、組織の一部のみを取り出すのではなく、頭部全体の断面を可視化できる様にした状況下で、可視化した間充織と脳・感覚原基の中にそれぞれある細胞の動態について、瞬発的及び長期的な反応をライブイメージングしていく。また、これらの力学的特性がどの様に組織の形態変化に関与するのか問うため、ライブイメージングで蓄積したデータを分析する。必要に応じて、採取した組織に対する応力解放試験を行う。 次に、これらの動態に関わる原因候補分子の抑制及び促進を、子宮内エレクトロポレーション法を用いて細胞レベルでおこなう。この結果より『ある特定の細胞種の動きを抑制・促進すると、周辺細胞・組織はどの様な動態を示すのか』、その影響を解析する。これと並行して、化学的(薬剤等)および物理的(伸張・圧縮させるなど組織に対する負荷)な刺激を加え、ライブ観察下にある組織の中の細胞の挙動に何らかの変調が認められるか、リアルタイムで観察する さらに、これまでの結果と合わせて、固定標本や細胞株等を用いたvitro系実験と組み合わせる事で、ターゲット組織と近隣細胞の正常発生過程における関わり合いを裏付ける。これにより、より深い知見を得る事ができるのではないかと推測する。さらに、もし細胞動態や組織形態の変化が認められれば、同様に得た生後マウスを、歩行など行動学的検査に供する。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症防止のため、学会が全てweb開催になったため、旅費の必要がなくなった。 また、所属機関変更のため、科研費を使用できる様になるのに時間を要したため。
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