2021 Fiscal Year Research-status Report
Post-transcriptional control of spermatogonial stem cell self-renewal and differentiation
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20K07228
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
黒羽 一誠 横浜市立大学, 医学部, 助教 (50580015)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 精子幹細胞 / エピジェネティクス / 翻訳制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
精子幹細胞では、自己複製能を不可逆的に喪失し精子形成へ向けて運命決定される一時期を境として、大規模なゲノム修飾の変動が引き起こされる。この運命決定に関わる大規模なゲノム修飾の変化は、ゲノム修飾酵素(Dnmt3AとGLPタンパク質)の、転写後レベルで起こる発現上昇に依存する。本研究は、ゲノム修飾酵素の発現上昇に関わる転写後制御機構を明らにすることを目的として、「翻訳制御」の可能性について解析した。本研究の成果により、精子幹細胞の分化開始機構が明らかになるだけでなく、種の保存や、不妊症の原因解明とその治療への応用も期待される。 mRNAを適所に局在化させることは、タンパク質合成に有利に働く可能性がある。また、多くの幹細胞は分化に伴ってタンパク質合成全般を増加させることが知られている。そこでまず、酵素mRNAの所在を、一分子In Situ Hybridization法により解析した。その結果、各酵素のmRNAは、運命決定の前後で核内と細胞質のいずれにも存在し、P-bodyやストレス顆粒のような細胞内構造体への集積も観察されなかった。次に、細胞の持つ翻訳活性を評価するため、tRNA類似体の取り込み量を指標として、全タンパク質の合成量を解析した。その結果、成熟過程にある精子幹細胞において、タンパク質合成全般が顕著に増加する時期と、ゲノム修飾酵素の発現上昇が起こる時期が明確に異なることを明らかにした。これらの結果から、ゲノム修飾酵素の発現上昇が、1) mRNAの細胞内局在の変化に依存した翻訳制御、2) 細胞分化の進行に伴う翻訳活性の上昇(=全mRNAの翻訳の亢進)、によって誘導されている可能性は低いと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「翻訳制御」の検討に必要な実験手法の立ち上げに、予想より多くの時間がかかってしまい予定していた研究に遅延が生じた。しかしながら、一分子In Situ Hybridization法をマウスの精巣切片上で行うためのプロトコルを確立し、運命決定の前後で起こるmRNAレベルの変化を(一般的なIn Situ Hybridization法よりも)高解像で解析できるようになった。tRNA類似体を用いた全タンパク質合成量の解析も安定した結果が得られていることから、精子幹細胞の運命決定において、1) mRNAの細胞内局在の変化に伴う翻訳制御、2) 細胞分化に伴う翻訳活性の上昇、によりゲノム修飾酵素の発現上昇が起こる可能性を除外することができた。 一方、以前行ったRNA-Sequencingのデータ解析から、Dnmt3A mRNAの翻訳が選択的に上昇していることを示唆するデータが得られた。これまでに確立してきた手法を用いて、このデータの検証を急いでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの研究成果に関しては、バイオロジカルレプリケイトをとり論文化に向けてデータを確定させていく予定である。また、以前行ったストランド特異的なRNA-Sequencingのデータ解析から、DNMT3A遺伝子の5’端から、データベースでアノテーションされていないアンチセンスRNAが発現していることを発見した。このアンチセンスRNAは、運命決定後、特異的にその発現が上昇していた。DNMT3A遺伝子と同様に、運命決定後に遺伝子領域の5’端からアンチセンスRNAを高発現し、かつ、センス側のmRNAの転写量に変化のない遺伝子を探索した結果、この特徴を持つ遺伝子セットがクロマチン関連遺伝子に偏ることがわかった。次に、これらのクロマチン関連遺伝子の発現が、運命決定後に上昇するか検証したところ、Dnmt3Aタンパク質と同時期に、タンパク質レベルでの発現上昇を確認することができた。この結果は、複数のクロマチン関連遺伝子が、アンチセンスRNAによって時期特異的な発現制御を受けていることを示唆している。現在、この可能性の検証を中心に進めている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由: 新たに立ち上げた実験手法の確立に予想より多くの時間を要したため、研究計画に若干遅延が生じている。そのため、予定していた複数の実験に必要な消耗品をまだ購入できていない。 使用計画: 次年度支給額と繰越金を、進展のあった研究計画をさらに進めるために使用すると共に、現在進行中の研究に必要な消耗品を購入していていく予定である。
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