2022 Fiscal Year Research-status Report
Numerical analyses of the complex pathogenesis for hereditary tachy-/brady-arrhythmias due to TRPM4 channel mutations
Project/Area Number |
20K07269
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
井上 隆司 福岡大学, 公私立大学の部局等, 研究特任教授 (30232573)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | TRPM4チャネル / 遺伝性心不整脈 / 興奮伝導障害 / 電気生理学 / 数理モデルシミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
TRPM4チャネルの不整脈性変異体Q854Rに対し、パッチクランプ法による詳細なゲーティング解析を継続して行った。その結果に基づいて精緻化したプルキンエ線維・心房筋の単一細胞活動電位(AP)モデルを用い、1D-ケーブル、2D-シート、3D-スラブにおけるシミュレーションを実行して以下の結果を得た。 (1)Q854R変異体では、静止電位や静止Ca2+濃度付近においても「閉状態→開状態」の遷移が促進されると同時に「開状態→閉状態」の遷移が遅延していた。(2)この変化による影響はE7K変異体に比べて更に著しく、Q854R変異体活性の僅かな増加によっても静止電位の脱分極シフトと活動電位の再分極後期相の著明な延長が生じた。その一方で、E7K変異体に特徴的なtriggered activity(EAD)による再分極の不安定化はみられなかった。(3)プルキンエ線維の興奮伝導を表すケーブルモデルによるシミュレーションでは、上記の変化が頻拍時などに蓄積し、それに伴って電位依存性Na+チャネル不活化も高度化して興奮伝導の遅延や完全な途絶が生じた。(4)心房筋APモデルや心臓線維芽細胞を導入した2次元シートや3次元スラブのシミュレーションでは、変異体の最大活性や組織不均一性が増すにつれて興奮伝播の異方性が増し、局所における興奮伝導遅延・途絶だけでなく、興奮波フロントの分裂、蛇行、旋回、融合といった複雑なパターンの伝播異常が生じた。以上のことから、TRPM4チャネルのQ854R変異は、チャネルレベルの機能的変化は同一でありながら、時空間的なコンテクストに依って、徐脈性不整脈、頻脈性不整脈の両方の特徴を引き出す複雑な基礎過程として働く可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以前よりハイスペックの並列型コンピュターを新たに導入したことで、2次元のシミュレーションが効率化されただけでなく、3次元のシミュレーションも実質的に可能になった。その結果、Q854Rなどの単一のTRPM4変異によるゲーティングキネティックスの変化が、複雑な興奮の生成や伝播の障害を引き起こす可能性を明らかにできた。加えて、もう一つのgain-of-function変異E7Kとの違いを定量的に差別化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
延長年度に当たる2023年度は、E7K、Q854R変異によって生じる2次元、3次元レベルの興奮伝播異常の根底にあるメカニズムの解析を進める。また、会津大学の朱博士との共同で、AIによるECG診断などに用いられている枠組みを利用して計算負荷を低減し、スパコンを用いない全心房(全心臓)3Dモデルを用いたシミュレーションの現実化を試みる。
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Causes of Carryover |
研究目的の達成に必要な実験はほぼ順調に完了したが、論文として発表するためには、並列型コンピューターを用いたシミュレーション(特に3次元モデル)とその詳細なメカニズム解析の期間が更に必要である。延長年度は、共同研究者(会津大学コンピュター理工学部上級准教授、朱欣博士)との打ち合わせ旅費や論文投稿料などに使用する予定である。
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Research Products
(3 results)