2020 Fiscal Year Research-status Report
Study for the mechanism of functional expression and dysfunction of membrane proteins through direct observations of single molecular fluctuation
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20K07279
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
相馬 義郎 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (60268183)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内橋 貴之 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30326300)
古田 忠臣 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10431834)
中川 大 中部大学, 応用生物学部, 准教授 (40397039)
岩本 真幸 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40452122)
大崎 寿久 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所, 人工細胞膜システムグループ, サブリーダー (50533650)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 膜蛋白複合体 / 抗原ー抗体反応 / 分子間相互作用 / 1分子直接観察 / 高速原子間力顕微鏡 / CFTR / 嚢胞線維症 |
Outline of Annual Research Achievements |
膜蛋白およびそれらの高次機能複合体の動作機構の解明は、医学生理学の大きな進歩に繋がると期待されるが、細胞生理学、生化学および免疫組織学的な研究が中心であり、その分子レベルでの詳細な動作メカニズムについては、ほとんど解っていない。最近のクライオ電子顕微鏡法の発展により、多くの膜蛋白の立体構造が明らかになってきているが、それらはある条件下における平均化構造(スナップショット)に過ぎず、それらは膜蛋白の機能発現の理解への重要な第一歩ではあるが、その全体的な理解にはまだほど遠いものがある。 研究代表者は、現在までの高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いた抗原-抗体反応や膜蛋白1分子から膜蛋白複合体までの分子レベルでの直接観察を行なってきた。特に抗原-抗体反応においては、高速AFMで観察された1分子レベルでの抗原と抗体の結合・解離動態とELISAから得られる巨視的レベルでの結合・解離情報の間に無視できない相違が認められたことから、分子レベルと巨視レベルとの間のメゾスコピックな領域における分子間相互作用に関する未知の分子動態プロセスの存在の可能性に気づいた。 さらに1分子の動態観察においては、ABCトランスポータであるCFTRの細胞内側にある2つのNucleotide Binding Domain (NBD)が、2量体の形成と解離という2つの状態を単に直線的に行き来するのではなく、2つのNBDが大きくランダムに「ゆらぐ」なかで機会的に会合して2量体を形成している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高速AFMで直接観察された1分子動態の動画データを正しく理解し定量的に解析するためには、分子動力学(MD)シミュレーションが必要となる。本研究における標的分子のひとつである嚢胞線維症原因遺伝子産物CFTRについては、2つのNBDが、ATPを挟み込んだ形で2量体形成を形成している状態と解離している状態の分子構造がクライオEMによって解かれている。 NBD1に存在する日本人病因性変異としては、L441P、Y517H、L548Q、I556V、L571Sの5つがある。NBD1はCFTR蛋白がER上で正しく折りたたまれて構造形成さていくための一つの重要ポイントになっている。NBD1構造が不安定であったり、他のドメインとの相互作用が不安定であると、CFTR蛋白分子全体の安定性が失われ、ゴルジでの糖鎖修飾が行われないまま、分解されてしまう(クラスⅡ変異)。上記の日本人変異体では、L441P、Y517H、L548Q、L571Sの4つがクラスⅡ変異であることが分かっている。本年度は、NBD1の野生型WTおよび上記の5つの変異体NBD1のMDシミュレーションを行なって、それぞれのゆらぎを評価した。その結果、特にL441P変異NBD1はL441P部位から離れた部位に大きなゆらぎが観測され、クラスⅡ変異効果の原因である可能性が示唆された。 また、実験的には日本人において2番目と3番目に多いL441P変異およびH1085R変異CFTRが、白人種に最も高頻度に見られるΔF508クラスⅡ変異体を安定発現させる目的で米Vertex社によって開発された薬剤Lumacaftor(VX-809)やElexacaftor(VX-445) によって安定発現化されることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.一分子ゆらぎのコンピュータシミュレーション まず最初にCFTR分子をリン脂質二重膜に組み込み、周辺を生理的電解質溶液で満たした疑似生理学的状態下での平衡化MDシミュレーションを行なって、クライオEM構造から実際に機能している状態でのCFTRの分子構造を引き出す。現時点おいて一般的に行われている全原子MDシミュレーションでは、コンピュータの計算能力の限界によって数十ns程度までの時間経過を追うにとどまっている。一方、高速AFMによって得られる動画データで示されているCFTR 分子全体レベルでのゆらぎの時間経過は数ms~数sにまでおよぶ。この長い時間経過のゆらぎ現象をシミュレーションすることを可能にする手法としてMartini粗視化モデルがあり、この手法を用いてCFTRのゆらぎの再現と定量的理解をめざす。 2.日本人病因性変異体CFTRの分子病態生理学 NBD1においてF508は、W496とともにintracellular loop(ICL)4のF1068およびF1074と疎水性結合を形成して、NBD1とICL4の安定結合に寄与している。ΔF508変異によるF508の欠損は、この疎水結合を不安定化し、さらにCFTR分子全体の不安定化につながって、クラスⅡ変異効果を引き起こす。このΔF508変異体の発現安定化薬によって日本人のL441PおよびH1085R変異体も安定発現する傾向が見られたことから、これらの日本人変異もΔF508変異に似た不安定化やゆらぎの変化に深く関連した分子病態メカニズムを持っていると考えられる。今後は、これら変異CFTRのチャネル機能および活性強化薬の研究を進めていく。
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Causes of Carryover |
分子動力学シミュレーションに関する共同作業を行なっていた研究分担者との作業の一部を、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の影響によりオンラインで行なったため、本年度予算の一部を次年度に使用することにした。また、研究代表者分については実験用消耗品を購入した際に端数として残額が1円でた。少額なので購入できる物品がないため次年度に使用することにした。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] 日本人嚢胞線維症患者におけるCFTRチャネル変異体の機能不全2020
Author(s)
相馬 義郎, 清水 正浩, 大川 詩織, 松澤 由佳, 金子 すずな, 深田 侑希, 成田 和希, 直井 佑太, 君島 莉央, 相馬 光流, 岩井 翔吾, 小林 奈央, 中尾 香菜子
Organizer
第98回日本生理学会大会
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