2020 Fiscal Year Research-status Report
概日リズム睡眠障害の解消を目指した体内時計制御機構の解明
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20K07282
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
南 陽一 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任准教授 (40415310)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 体内時計 / 位相前進 / 時差ボケ / 遺伝子改変ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
時計遺伝子BMAL1のドミナントネガティブ(DN)体を発現するトランスジェニックラットの解析を行ったところ、活動開始時刻が有意に早くなった。さらに時計中枢である視交叉上核の時計遺伝子発現リズムをPer2プロモーターで誘導されるホタルルシフェラーゼの活性を指標に観察したところ、BMAL1 DN TGラットでは振幅が有意に減弱した。時差ボケは体内の時刻と環境の時刻との不一致によって生じる。体内時計の頑強性が減弱した場合には、体内時計は外環境の変化に影響され易くなると考えられるため、BMAL1 DN TGラットでは時差ボケが短くなると期待された。実際、BMAL1 DN TGラットの飼育環境の明暗サイクルを急に変化させたところ、コントロールラットにくらべて有意に早く新しい環境に馴化したことが分かった。 CRISPR/Cas9による遺伝子編集技術は、ノックアウト(KO)ラットの作成を容易にした。近畿大学医学部においてCRISPR/Cas9法を用いて新規に作成したVipr2 KOラットは視交叉上核における細胞間コミュニケーションに重要だと考えられているVIPの受容体を欠損するラットで、Vipr2 KOマウスでは体内時計の1日の長さが短くなる、もしくは消失することが知られている。Vipr2 KOラットの行動リズムを測定したところ、ほぼマウスと同一の表現型をみた。すなわち、明暗周期における活動開始位相の前進と恒常暗安条件における行動リズムの消失ないし短周期化である。分子メカニズムに迫るため、現在Per2-dLucレポーター遺伝子をもつトランスジェニックラットとの交配および器官培養下での視交叉上核の発光リズムの観察を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BMAL1 DN TGラットの解析結果は、European Journal of Neuroscience誌への掲載を果たした(Minami et al., Eur J Neuroscience, 2021)。また、CRISPR/Cas9法を用いたVipr2 KOラットの作出に成功した。私たちはVipr2遺伝子の第1エクソン、第2エクソンを標的とした2種類のsgRNAを用いてVipr2に変異をもつ遺伝子改変ラットを作出し、交配によって2系統の変異ラットを得ることができた。行動レベルでの概日リズムの解析は1頭あたりに1月以上かかるため実験の推進のボトルネックとなり得るが、幸い例数をかさねることができており、統計的な有意差も確認されている。Vipr2 KOラットを時計遺伝子レポーターをもつTGラットと交配して仔を得ることにも成功しており、視交叉上核器官培養系を用いた実験の遂行も順調である。 一方で、作出した個体(F0世代)および得られた2系統の遺伝子型の特定は順調に進んでいるが、オフターゲット効果の検討や発現レベルでのVipr2機能欠損の確認が、残された課題である。さらに、外界の変化への順応など、行動レベルでの検討もまだ残されている。これらの課題は当初の予測範囲内であったため、「おおむね順調」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はVipr2 KOラットの解析に焦点を絞って研究を進める。 残された課題でクリアしなければならないものは、オフターゲットの確認と発現レベルでのVipr2欠損の確認である。前者に関しては2系統のKOラットで同一の結果を得ているためにみられた結果がオフターゲット効果によるものである可能性は低いと考えるものの、sgRNA設計の際に候補を抽出してある領域の配列を順次確認していく。後者についてはVipr2が膜タンパク質であることを考慮し、まずはRNAレベルでの発現検討を行う。In situハイブリダイゼーション法による視交叉上核内での発現検討を予定する。 遺伝子発現リズムの検討については、視交叉上核の時計遺伝子の発現パターンをIn situハイブリダイゼーション法で追求するとともに、器官培養下の視交叉上核の発光リズムを観察して、振幅、周期、位相、また振動の持続性について検討を加える。特に空間的な情報が重要である可能性があり、発光顕微鏡を用いた検討を進める。特に統計的な解析を重点的に進める。 BMAL1 DN TGラットのデータから、Vipr2 KOラットでも時差ボケへの応答性が変化している(順応が早い)可能性が考えられる。このことに関し、KOラットでの行動リズム測定を進めていく。Vipr2 KOラットの光に対する位相応答が変改している可能性も考えられるが、事前検討から光照射前後の活動リズムの安定性が悪いため、詳細な検討は想定しない。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の状況において年度初頭に研究を十分に進めることが困難であったこと、動物の繁殖に手間取り実験の遂行に十分な数の確保に時間がかかったこと、必要な実験を絞って実施したことから、支出額が見込みよりも低くなった。昨年度未使用額に関しては、昨年度実施できなかった確認実験や、研究を発展させるための探索的な試みを遂行する。特に、昨年度十分に行えなかった発光リズム観察に関わる消耗品費や、遺伝子配列解析等の分子生物学的検討に係る消耗品費として充当する考えである。
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Research Products
(2 results)