2021 Fiscal Year Research-status Report
透過イオンの「流れ」に依存するチャネルブロックの分子内機構の解明
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20K07283
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
柳 圭子 (石原圭子) 久留米大学, 医学部, 准教授 (70265990)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イオンチャネル / カリウムチャネル / 内向き整流性 / 電位依存性ブロック / ポリアミン |
Outline of Annual Research Achievements |
心筋をはじめ様々な細胞において重要な働きを担う内向き整流性カリウムイオン(K+)チャネルの外向き電流は、正に帯電したアミノ基を2~4個持つポリアミンなどの細胞内多価陽イオンが電位勾配に従って細胞内から細胞外へチャネルを透過できずにチャネル内に留まり、外向きのK+の流れをブロックすることによって電位依存性に調節されると考えられている。しかし、実際にはこのブロックの電位依存性は細胞外K+の濃度が変化すると膜電位とK+の平衡電位(EK)の差に依存して移動し、ブロックはあたかもK+の流れによって駆動されるかのように振る舞う。この性質は一般には細胞外から進入するK+と細胞内から進入する不透過の陽イオンがチャネル内で競合するために生じると考えられているが、多価の陽イオンと一価のK+の競合によってブロックの電位依存性が必ずEKの変化分だけ移動する必然性は説明し難く、詳細なメカニズムは未だに不明である。われわれはポリアミンによるブロックは細胞内K+によっても駆動されること、一価陽イオンのNa+やLi+よって生じる緩やかな電位依存性を示すブロックは細胞内K+によって競合的に増減することをすでに見出している。そこで昨年度は、ポリアミン分子が有するアミノ基(正電荷)と細胞内K+との関係をさらに考察する目的で、チャネルをブロックする生理的な鎖状のポリアミン(スペルミン、スペルミジン、プトレッシン)と同等な長さの炭化水素鎖を有するがアミノ基(正電荷)の数が少ないビスアミンやモノアミンを用いて実験を行ったところ、ブロックの電位依存性の勾配(steepness)はポリアミン分子が保有するアミノ基(正電荷)の数では無く、アミノ基の間にある炭化水素数によって決まることが分かり、炭化水素鎖とチャネル内壁との疎水性相互作用がチャネル内でブロックが生じる電気的距離を決めることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生理的な内向き整流性のメカニズムとしてのポリアミンによる電位依存性ブロックが膜電位とK+の平衡電位(EK)の差によって駆動されるメカニズムに関して、これまで細胞内のK+の役割を詳細に調べた報告は無く、われわれがこれまでに得ている知見は定説とされる細胞外から進入するK+と細胞内から進入する不透過の陽イオンの競合によって生じるという古典的なスキームを大きく進展されるものと考えている。現在行っているビスアミンやモノアミンを用いた実験は、ビスアミンやモノアミンが空気中の二酸化炭素と反応して劣化するためにやや思うようには進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
われわれは生理的な内向き整流性のメカニズムとしてのポリアミンによるブロックが見かけ上K+の電気化学ポテンシャル勾配によって駆動されるのは、ポリアミン分子の両端(と内部)に存在するアミノ基が持つ正電荷と細胞内外のK+との静電的反発力(斥力)がブロックに関与しているためではないかという仮説をもっている。現在行っているビスアミンやモノアミンを用いた実験などによって、できるだけ多くの確証を得たいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初の計画では老朽化していたパッチクランプ増幅器(Axoclamp200B)の買い替えを希望していたために初年度(2020年度)の交付額が高くなっていたが、当該機器が高額(20204月の時点で値上がりして320万円)であり、交付額全体(330万円)に占める割合が高すぎるために購入を断念せざるを得なくなり余剰が生じた。初年度はデータ解析に必要なソフトウエアやPCの更新が新たに必要となった他、細胞培養や電気生理学実験に必要な消耗品の購入に研究費を使用し、2021年度は同様の消耗品やソフトウエアの維持費に加えて二酸化炭素を吸着して変性しやすい性質を有するポリアミンを窒素充填下に正確に秤量するための機器(ポータブル天秤など)の購入に使用したが、初年度で生じた余剰金の多くが残る結果となった。次年度(2022)年度はこれまで通りの実験に必要な消耗品に加えて、論文投稿費用などが生じる予定である。
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Research Products
(1 results)