2021 Fiscal Year Research-status Report
前帯状皮質ミクログリアに着目した慢性疼痛の病態解明と新規創薬ターゲットの探索
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20K07291
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
中島 一恵 (久岡一恵) 広島大学, 医系科学研究科(薬), 助教 (20393431)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森岡 徳光 広島大学, 医系科学研究科(薬), 教授 (20346505)
中村 庸輝 広島大学, 医系科学研究科(薬), 助教 (60711786)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ミクログリア |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性疼痛は頻度が高い疾患であるが、既存の鎮痛薬が奏効しないため患者数が増加の一途をたどっている。より有効で安全な新規鎮痛薬が求められていることから、慢性疼痛の病態メカニズムを明らかにし、病態仮説に則った合理的な新薬の開発は急務である。研究代表者らは慢性疼痛の一種である神経障害性疼痛モデル動物において、前帯状皮質ミクログリア活性化に伴う炎症が慢性疼痛の情動系異常(不安・うつ様行動)に関与することを明らかにしている。また、神経障害性疼痛モデルマウス脳において、複数の脳領域(前帯状皮質、島皮質、海馬、嗅周皮質、扁桃体)においてミクログリアの活性化を確認した。そこで、本研究では神経障害性疼痛により生じるミクログリア活性化に伴うミクログリアの機能変化について解析し、神経障害性疼痛による情動系および感覚系機能異常に対するミクログリアの役割を明らかにすることで、脳ミクログリアを標的とした新たな慢性疼痛治療薬の開発への手がかりとする。本年度は以下の研究成果を得た。 1、神経障害性疼痛モデルマウスにおける認知機能低下に対して、炎症反応を惹起するdamage-associated molecular patterns (DAMPs)の一種であるhigh mobility group box-1 (HMGB1)放出による海馬ミクログリアの活性化に伴う神経細胞の形態変化(突起短縮とスパイン密度低下)が関与する可能性が示唆された。2、神経障害性疼痛モデルマウス海馬において、AMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluA2の低下を確認したことから、グルタミン酸神経伝達に異常が生じている可能性が示唆された。3、神経障害性疼痛モデルマウス海馬におけるミトコンドリア機能障害が不安うつ様行動に関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神経障害性疼痛モデルマウスにおける認知機能低下に対してHMGB1による海馬ミクログリアの活性化に伴う神経細胞の形態変化が関与することを明らかにした研究成果については、英文学術誌に投稿し査読中である。神経障害性疼痛モデルマウスの認知機能低下に対して、HMGB1による海馬ミクログリアの活性化が関与する可能性については第43回 日本生物学的精神医学会 第51回 日本神経精神薬理学会 合同年会において、ポスター発表を行った。神経障害性疼痛モデルマウス海馬においてAMPA型グルタミン酸受容体サブユニットGluA2の低下によるグルタミン酸神経伝達異常が生じている可能性については、第60回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会 中国四国支部学術大会において、口頭発表を行った。神経障害性疼痛モデルマウスの認知機能低下メカニズムとして、HMGB1による海馬神経細胞突起の短縮とスパイン密度の低下が関与する可能性については第95回日本薬理学会年会において、口頭発表を行った。神経障害性疼痛モデルマウス海馬におけるミトコンドリア機能障害を確認したことについては、第139回日本薬理学会近畿部会において口頭発表を行った。以上のことから、おおむね研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ミクログリアは中枢神経系に定住するマクロファージであり、発生においてはシナプス剪定により精密な神経回路を構築し、成体においては異物や死細胞を貪食除去し神経保護因子を放出してニューロンを保護するなど、脳の恒常性維持において極めて重要な役割をはたしている。しかし、過剰な活性化により毒性変換すると炎症性因子を放出し神経に傷害を与えるとともに、過剰な貪食により神経に対して傷害的に作用することが知られている。このように、ミクログリアは多様な作用を有する細胞であり、脳領域や疾患に応じて異なる活性化状態(M1ミクログリア、M2ミクログリア)を呈することが知られている。本研究はこれまでの検討において、ミクログリアの活性化マーカーとして、Ionized calcium binding adapter protein 1 (Iba-1)を用いて免疫染色を行ってきた。今後は、Iba-1以外のミクログリアの活性化マーカー(CD11b、CD68、P2Y12、TREM119)やM1ミクログリアマーカー(iNOS、CD86)、M2ミクログリアマーカー(Mannose Receptor、TREM2)を用いて免疫染色を行い、神経障害性疼痛により複数の脳領域で活性化されるミクログリアの活性化状態について明らかにする。一方で、髄膜や血管周囲などの脳境界領域には中枢神経マクロファージ(CAMs)というミクログリアと非常に性質が類似している細胞が多数存在することが知られている。そこで、ミクログリアと区別するためにCAMsマーカー(CD206)を用いて免疫染色を行う。末梢の炎症が中枢に移行する経路の一つである脈絡叢とその周辺の脳領域に特に着目してCAMsについて検討を行う。さらに、神経障害性疼痛モデルマウスの認知機能低下における海馬神経細胞の形態変化と海馬ミクログリアの関連性について、ミクログリアを一時的に枯渇することが可能なクロドロン酸内包リポソームを海馬に局所投与し、認知機能低下と神経形態に対する効果について検討を行う。
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