2021 Fiscal Year Research-status Report
チャネルのイオン選択性異常を是正する作用薬の同定:遺伝性チャネル病の治療に向けて
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20K07304
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
陳 以珊 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (40757770)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イオン選択性 / イオンチャネル病 |
Outline of Annual Research Achievements |
GIRKチャネルの遺伝子変異による異常なイオン選択性は、過剰なNa+とCa2+の流入による細胞死を引き起こす。このような変異したGIRKチャネルによるイオン調節機能の障害は、Keppen-Lubinsky症候群や原発性アルドステロン症等先天性疾患の原因である。 本研究の目的は、変異したGIRKチャネルの異常なイオン選択性を是正する新規メカニズムによる作用薬の探索である。我々は、既存のWeaver変異マウスが有するGIRK2 G156S変異体のin vitro発現系での解析を重点的に行い、新規作用薬の同定、メカニズムの解明、さらにその薬による変異動物の細胞・組織・個体レベルの異常症状の改善の検証を目指す。 異常なイオン選択性を持つGIRK2の変異体を部位特異的変異導入法により作成し、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、二電極膜電位固定法により電気生理学的解析を行った。その結果、GIRK2チャネルのイオン選択性フィルタ(SF)部分が変異したG156S変異体では、通常のSFの構成するK+の透過路とは別に、Na+やLi+が通過する第二のイオン透過路が新たに形成されたことがわかった。また、このNa+やLi+が通過する第二の透過路は、SFとその背後に位置するポアヘリックス(PH)の間の空間に位置することが示唆された。以上の結果は、「イオン選択性の異常は、イオン選択性フィルタのゆがみ、ゆるみによるもの」とされていた、これまでの考えを覆すものである。この研究結果はThe Journal of Physiology誌(2022年2月)に出版された。 この研究結果を基に、今後は第二のイオン透過路の選択性阻害薬の同定を目指す実験を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)GIRK2 G156S変異体においてNa+やLi+がどのように流入しているのかを確かめるため、イオン選択性フィルタを阻害するBa2+やTPN-Qを投与することで、イオンの通り道を塞ぐ実験を行った。その結果、K+の流入は減ったものの、意外にもNa+やLi+の流入はあまり減っておらず、K+に対する相対的なイオン透過が劇的に上昇することが観察された。この結果は、Na+やLi+はイオン選択性フィルタを通って流入しているのではなく、別の通り道から流入していることを示唆している。 (2)パッチクランプ法を用いて、単一GIRK2チャネルが透過するそれぞれのイオンの電流を測定したところ、K+電流はTPN-Qにより阻害される一方で、Li+電流はTPN-Qを投与しても阻害されにくいことがわかった。また、K+とLi+両方を細胞外において記録すると、2種の異なるチャネル活動が記録され、K+に相当すると考えられる電流のみがTPN-Qにより阻害されることが観察された。これらの結果から、イオン選択性フィルタ透過路とは別の、第二のイオン透過路が変異により形成されていることが明らかになった。 (3)イオン選択性フィルタ(SF)とその背後に位置するポアヘリックス(PH)のアミノ酸残基を変異させた変異体を用いて、解析を行った結果、この第二のイオン透過路はSFとPHの間に形成されていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果から、GIRK2 チャネルのG156S変異体の異常なイオン選択性について、従来と全く異なる解釈である「新規イオン透過路の形成による異常のイオン選択性の発生」の新規制御機構が示唆された。この結果を基に、今後は以下の実験を行う予定である。 (1)G156S第二のイオン透過路の選択性阻害薬の同定を目的とした小分子ライブラリーのスクリーニング (2)G156S変異体のモデル動物Weaverマウスを用いて選択性阻害薬による細胞・組織・個体レベルの治療効果の検証 (3)FRET 計測法による選択性阻害薬の結合によるイオン選択性フィルタおよびその近辺構造変化の動態解析
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、2019から現在、研究討論会や学会などの開催がオンライン化され、学会等の参加のための旅費の発生がなくなった。 2021度は、GIRK チャネルの遺伝子変異による異常なイオン選択性のメカニズムについて、主に電気生理学的解析を中心に行った。 2022年度は、野生型マウスとWeaverマウスを購入し、動物実験を行う予定である。また、電気生理学的実験、分子生物学的実験や細胞培養用の試薬と消耗品を購入、関連実験を行う予定である。
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Research Products
(6 results)