2021 Fiscal Year Research-status Report
多発性骨髄腫で転写因子IKAROSの不安定化を促進する新規化合物の開発
Project/Area Number |
20K07351
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
落合 恭子 東北大学, 医学系研究科, 助教 (10455785)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多発性骨髄腫 / 転写因子IKAROS / クロマチン制御因子PC4 / 転写因子IRF4 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト多発性骨髄腫は、骨髄中の形質細胞がガン化して増殖し骨破壊などを引き起こす疾患である。多発性骨髄腫では転写因子IKAROSが腫瘍増悪に機能していて、IKAROSタンパク質分解を誘導する抗がん剤レプラミドを用いた治療が有効である。しかし、IKAROSはB細胞・T細胞・NK細胞などの免疫細胞分化にも重要であるため、レプラミドを用いた治療は免疫機能低下による感染症などの重篤な副作用が問題になる。この問題を解決するため、レプラミドとは異なる作用機序でIKAROSタンパク質を不安定化させ、低濃度のレプラミドで治療効果を得る薬剤併用療法が重要になる。 本研究では、クロマチン制御因子PC4によるIKAROSタンパク質安定化制御機構に着目する。我々は、ヒト多発性骨髄腫細胞株KMS12PEでPC4をノックダウンするとIKAROSタンパク質が減少し、単独よりも低濃度のレプラミドでIKAROSタンパク質の減少を誘導できることを見出している(Ochiai K. 2020 Cell Reports)。このことから、PC4によるIKAROSタンパク質安定化制御を標的とした薬剤を活用すれば、低濃度レプラミドと併用した治療が可能と考えた。研究開始当初、PC4複合体にIKAROSが同定されたため、PC4-IKAROS間の相互作用がIKAROS安定化に重要だと予想し、両者の相互作用を阻害すれば目的を達成できると考えた。しかし昨年度、PC4はIKAROSとの相互作用に依存せずIKAROSタンパク質を安定化する可能性が浮上した。本年度はその詳細な検討を行うと同時に、PC4-IKAROS間の相互作用以外でレプラミドと併用できる分子機構として、転写因子IRF4によるPC4遺伝子発現制御の分子機構を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の結果に基づき、PC4によるIKAROSタンパク質安定化がPC4-IKAROS間の相互作用に依存するか調べた。293T線維芽細胞にタグ付PC4とIKAROSを過剰発現させて両者の結合を検討したところ、PC4とIKAROSタンパク質の相互作用は認められなかった。このことから、PC4は相互作用に依存せずIKAROSタンパク質を安定化していると考えられた。そこで、当初計画していたPC4-IKAROS間の結合阻害とは異なる分子機構を活用するため、PC4遺伝子発現制御機構に着目した。 マウスPC4遺伝子は転写因子IRF4によって発現誘導され(Ochiai K. 2020 Cell Reports)、IRF4はIKAROSと同様にヒト多発性骨髄腫の増悪因子である(Shaffer AL. 2008 Nature)。そこで、ヒト多発性骨髄腫細胞株KMS12PEを用いてIRF4 ChIP-sequenceを行ったところ、PC4遺伝子上へのIRF4結合を見出した。KMS12PEではIRF4タンパク質が蓄積していて、PC4遺伝子上のIRF4結合領域にはIRF4がタンパク質蓄積に伴って特異的に結合するDNAモチーフが存在していた。さらに、KMS12PEでIRF4タンパク質複合体を精製して質量分析による翻訳後修飾解析を行ったところ、IRF4タンパク質蓄積に重要と予想される特定アミノ酸の翻訳後修飾を見出した。このことから、IRF4タンパク質の同アミノ酸修飾を阻害すれば、IRF4タンパク質の蓄積が阻害されてPC4遺伝子発現が低下し、IKAROSタンパク質が不安定化すると予想された。 進歩状況は、当初の計画とは異なるが、レプラミドと併用できるIKAROS不安定化薬剤の可能性を見いだすことが出来たため、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに見出した、多発性骨髄腫細胞におけるIRF4タンパク質蓄積によるPC4遺伝子発現制御機構を標的とした治療法の有用性を検討する。具体的には、IRF4タンパク質蓄積を誘導するIRF4タンパク質アミノ酸の翻訳後修飾を阻害し、PC4遺伝子発現低下とIKAROSタンパク質不安定化を引き起こせるか調べる。そして、同制御機構を併用すれば低濃度レプラミドでも効果的にIKAROSタンパク質を減少させることができるか調べる。 現段階では、同定したIRF4タンパク質の翻訳後修飾を含むアミノ酸配列から、少なくとも2種類の修飾酵素ファミリーによる翻訳後修飾が予測されている。いずれの修飾酵素もIRF4タンパク質蓄積に関与する可能性があるので、これらの修飾酵素阻害剤を用いてIRF4タンパク質量の変化を調べる。KMS12PEの培養液中にアミノ酸修飾酵素の阻害剤を希釈系列で添加し、IRF4タンパク質量の変化を調べる。また、IRF4遺伝子の発現変化も調べ、阻害剤によるIRF4タンパク質量変化がタンパク質レベルであるか明らかにする。次に、KMS12PEにおいてIRF4タンパク質量を減少させるアミノ酸修飾酵素阻害剤について、IRF4によって誘導されるPC4遺伝子の発現とタンパク質量変化を調べる。さらにその下流で、PC4によって安定化するIKAROSタンパク質量の変化を調べ、IKAROS遺伝子発現が影響を受けるかも明らかにする。一連の解析で、IRF4タンパク質量の減少、PC4の遺伝子発現低下とタンパク質量減少、IKAROSタンパク質量減少を引き起こすアミノ酸修飾酵素阻害剤を選択し、IKAROSタンパク質が残存する最小濃度を決定する。同濃度のアミノ酸修飾酵素阻害剤と低濃度レプラミドをKMS12PE培養液中に同時に添加し、低濃度レプラミドでIKAROSタンパク質減少を誘導できるか調べる。
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