2020 Fiscal Year Research-status Report
Virus infection induces neuroinflammation by autoimmune T cells in the multiple sclerosis model
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20K07455
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
角田 郁生 近畿大学, 医学部, 教授 (00261529)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 神経炎症 / 自己免疫 / 多発性硬化症 / ウイルス感染 / 中枢神経系 / 実験的自己免疫性脳脊髄炎 / 脱髄 / 次世代シーケンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
中枢神経系(CNS)の炎症性疾患である多発性硬化症(multiple sclerosis, MS) の発症頻度には地域差があることから、その発症には免疫素因のみならず、環境因子、特にウイルス感染が関わることも示唆されている。MS は、免疫素因のある個体が環境因子(特にウイルス) に暴露された時に発症に至ると推察されるが、ウイルス感染がいかに CNS炎症の引き金になるかは解明されていない。本研究では、ミエリン特異的 T 細胞受容体を過剰発現させたトランスジェニックマウスである2D2 マウスを「免疫素因を有する個体」のモデルとして使用し、ウイルス感染がCNS炎症の引き金となる機序を明らかにすることを目的とする。 令和2年度は、CNS炎症を誘導するウイルスおよびウイルス由来 PAMPs の同定を目的とし、2D2 マウス腹腔内に DNA ウイルスであるマウスサイトメガロウイルス (murine cytomegalovirus, MCMV)、RNA ウイルスであるタイラーウイルス (Theiler's murine encephalomyelitis virus, TMEV)を投与した。2ヶ月の観察期間では、運動麻痺は TMEV 投与群のみに認められた。病理学的には髄鞘染色で CNS に軽度の脱髄と炎症細胞浸潤がみられた。また、MCMV 投与群でも病理学的にCNS 炎症細胞浸潤が認められたが、一本鎖RNA 投与群と二本鎖 RNA 投与群では、炎症は軽度であった。 また、TMEVによるCNS炎症は、中枢神経内での免疫関連遺伝子の発現と相関していた。驚いたことに、もっとも相関を示した遺伝子の中にIgAがあった。IgAは本来は、粘膜免疫の主役となる免疫因子であるが、これまでにヒトMSでもIgAのCNSへの沈着が報告されている。なお、IgAの発現は、一部の腸内細菌の変動と相関していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2 年度は、中枢神経系(CNS) 炎症を誘導するウイルスおよびウイルス由来 病原体関連分子パターン(PAMPs) の同定を目的とした。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(MOG)特異的 T 細胞受容体を過剰発現させたトランスジェニックマウスである2D2 マウス腹腔内に DNA ウイルスであるマウスサイトメガロウイルス (murine cytomegalovirus, MCMV)、RNA ウイルスであるタイラーウイルス (Theiler's murine encephalomyelitis virus, TMEV)を投与した。評価手段として、運動麻痺および CNS切片の髄鞘染色により炎症と脱髄を定量した。TMEVのゲノムは一本鎖 RNA であるが、複製過程で二重鎖 RNA も産生されるため、両者が PAMPs として自然免疫応答を誘発しうる。一本鎖と二本鎖 RNA は TLR3 と TLR7/8 で、それぞれ認識される。2ヶ月の観察期間では、運動麻痺は TMEV 投与群のみに認められた。病理学的には髄鞘染色で CNS に軽度の脱髄と炎症細胞浸潤がみられた。また、MCMV 投与群でも病理学的にCNS 炎症細胞浸潤が認められたが、一本鎖RNA 投与群と二本鎖 RNA 投与群では、炎症は軽度であった。TMEV由来の一本鎖RNA と二本鎖 RNA の両者が相乗効果を果たしている可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度以降には、第一に、「末梢ウイルス感染によるCNS内遺伝子発現変化とMOG特異的T細胞活性化」を明らかにする。TMEV、一本鎖RNA 類似体と二本鎖 RNA 類似体の腹腔内投与後、CNS 内の遺伝子発現を次世代シーケンシングにて網羅的に調べる。中でもCNS 細胞浸潤に寄与しうる接着因子、サイトカイン・ケモカイン、血液脳関門分子に特に注目する。MOG 特異的T細胞は、ウイルス PAMPs によって直接的に、あるいはウイルス特異的 T 細胞によってバイスタンダー的に活性化されうる。そこで TMEV、一本鎖RNA 類似体と二本鎖 RNA 類似体をの腹腔投与後に経時的にリンパ球を分離し、フローサイトメトリーで T 細胞サブセット頻度と活性化マーカーをモニターし、MOG 特異的 T 細胞の活性化の程度を明らかにする。 第二に「ウイルス特異的T細胞移入によるMOG特異的T細胞のバイスタンダー活性化」を検討する。野生型マウスに タイラーウイルス(TMEV)を感染させウイルス特異的 T 細胞を分離し CFSE でラベル、これをナイーブ 2D2 マウス(レシピエント)に移入する。レシピエント脳内より炎症細胞を分離し、MOG 特異的 T 細胞 (Vα3.2陽性Vβ11陽性細胞) およびレシピエント細胞由来のウイルス特異的 T 細胞 (CFSE陽性細胞) の比率をフローサイトメトリー法にて評価する。さらに移入細胞を CD4 陽性 T 細胞と CD8 陽性 T 細胞に分離し、それぞれを移入しどちらに強い MOG 特異的 T 細胞の活性化能があるかを解明する。陰性コントロールとして、OT-II マウスより分離した OVA 特異的 T 細胞を移入細胞として、野生型 B6 マウスと OT-IIマウスをレシピエントとして使用し、これらを組み合わせた移入実験を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:並行しておこなっている関連研究からの支出により、出費削減できた。また、コロナ禍のため、令和2年度の研究は、ストックサンプルの解析と蓄積されていた未解析データのコンピュータ解析を優先的に行ったため、次年度使用額が生じた。
使用計画:令和3年度以降の研究経費の多くは、マウスを使用した介入実験の遂行およびデータ解析に必要な物品にあてられる予定である。主な計画として、1)末梢ウイルス感染によるCNS内遺伝子発現変化とMOG特異的T細胞活性化をみるために、ウイルス感染検体を使用し、ELISA で炎症性サイトカイン産生を、フローサイトメトリーで T 細胞サブセット頻度と活性化マーカーをモニターし、T 細胞の活性化の程度を明らかにする。2)ウイルス特異的T細胞移入によるMOG特異的T細胞のバイスタンダー活性化をみるために、複数の細胞移入実験を複数のトランスジェニックマウスを使用して行う。これらの実験では、脳内より炎症細胞を分離し、MOG 特異的 T 細胞およびレシピエント細胞由来のウイルス特異的 T 細胞の比率をフローサイトメトリー法にて評価する。さらに移入細胞を CD4 陽性 T 細胞と CD8 陽性 T 細胞に分離し、それぞれを移入しどちらに強い MOG 特異的 T 細胞の活性化能があるかを解明する。これらの実験には、相当額を要すると推測される。
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Remarks |
研究代表者が運営する近畿大学医学部微生物学講座のブログにて、本研究成果を発表した三つの学会発表内容を公表した。また、いずれのブログ内容も近畿大学医学部微生物学講座のFacebook(https://www.facebook.com/Kindai-University-Department-of-Microbiology-406138889435131)にリンクをつけ、発表内容を写真付きで解説した。
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