2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of a primate model for analysis on replicating and dormant liver stages using transgenic fluorescent Plasmodium cynomolgi
Project/Area Number |
20K07465
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Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
川合 覚 獨協医科大学, 医学部, 教授 (70275733)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡本 宗裕 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (70177096)
案浦 健 国立感染症研究所, 寄生動物部, 室長 (90407239)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 三日熱マラリア原虫 / Plasmodium vivax / サルマラリア原虫 / Plasmodium cynomolgi / 肝臓内休眠体 / 可視化 / GFP / ルシフェラーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
マラリアは熱帯・亜熱帯を中心とした地域に広く分布しており、いまもなお年間2億人以上の有病者と、40万人以上の死亡者を数える重要感染症のひとつである (WHO Malaria Report 2018)。5種類のヒト・マラリアのうち、特に三日熱マラリアは、致死率は高くないものの、東南アジアを中心に流行地域が存在し、最も 対策の困難なマラリアと言われている。それは、三日熱マラリアの原因原虫であるPlasmodium vivax (以下Pv)のもつ特有の発育過程に起因している。Pvは媒介蚊からヒトへ侵入後、肝臓内で一部の原虫が休眠体を形成する。休眠体は初期症状を治療した後も肝臓内に残存し、休眠体を根治しない限り再発を繰り返すこと が知られている。したがって、三日熱マラリアの撲滅には休眠体に対する対処方法がカギとなる。しかしPvの休眠体は完全に再現される培養系が確立されておらず、一般的な動物実験に使われるネズミマラリア原虫でも休眠体が形成されないことから、いまだ多くの基盤情報が未知のまま残されている。一方、サルマラリア原虫のP. cynomolgi(Pcy)は、Pvとゲノム配列の相同性が90%以上と系統的に最も近縁の原虫種で、休眠体の形成や赤内期の増殖サイクル等、生物学的性状も 極めて類似している。そのため欧米の研究機関では、Pcyを肝臓休眠体のin vivo モデルとして古くから用いている。近年、研究代表者らはニホンザルとPcyを用いた肝臓休眠体疾患モデルの作出に取り組み、国内で初めてin vivo 実験系の確立に成功した。そこで、本研究では肝臓休眠体の休眠期および再活性化に必須の 分子メカニズムを明らかにすることを目的に、遺伝子導入によるPcy可視化株の樹立を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の実験では、実験用アカゲザルで増殖させたPcyにピリメサミン耐性マーカー(hdhfr)とGFP::Luc(GFPとルシフェ ラーゼの融合遺伝子)遺伝子を導入し、赤血球内ステージでGFPとLucの蛍光活性を有するPcy可視化株(Pcy, GL株と命名)の樹立に成功した。本年度は凍結保存したPcy, GL株を解凍後、実験用アカゲザルに静脈内接種し、宿主内の増殖性と蛍光活性を確認した。その結果、Pcy, GL株は感染9日後から抹消血液中に出現、経過とともに増殖し、感染17日後には寄生率11.5%に達した。このような寄生率の推移は、野生株の増殖性と差異はなく、赤血球内ステージのGFPおよびルシフェ ラーゼ・リポーターアッセイでは常に蛍光活性を有することが認められた。また、同株の感染血液をハマダラカに人工吸血させたところ、吸血21日後の蚊中腸に多数のオーシストの形成が見られ、いずれもGFP蛍光活性が確認された。さらに吸血28日後の蚊唾液腺内には、蛍光活性を有するスポロゾイトの内包が認められた。これらのスポロゾイトを摘出後、4頭の実験用アカゲザル(No. 19RM-1, 19RM-2, 21RM-5, 21RM-6)へ静脈内接種した。19RM-1と19RM-2については感染7日後剖検に処し、摘出した肝臓をin vivo イメージング機器(NEWTON 7.0)で観察を行った。その結果、肝臓内に直径1~2mm程度の蛍光スポットが多数認められた。また、21RM-5,と21RM-6については、抹消血液中の寄生率が増加した感染20日後および感染16日後からクロロキン硫酸塩水溶液による治療を施し、感染33日後および感染29日後の肝臓を同様に方法で観察した。その結果、治療前の個体で見られたような蛍光スポットは、極端に減少していた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの実験成果により、本研究で樹立されたPcy, GL株は、赤血球内ステージ、蚊体内ステージ、およびサルの肝臓内ステージのいずれでも明瞭な蛍光活性が認められ、本株が可視化にすぐれていることが証明された。来年度は、Pcy, GL株のスポロゾイトを接種した感染アカゲザルより摘出した肝臓を用いて、病理組織学的な観察をすすめる。さらに肝臓組織標本を用いて、特異抗体を用いた免疫染色(抗GFP抗体や抗マラリア原虫抗体など)を施し、肝臓内におけるPcy, GL株の増殖像および休眠体像を組織化学的に確認する。また、あらためてPcy, GL株のスポロゾイトを作製し、初代ヒト培養肝細胞(LH TK-NOG 細胞)と混合培養することでin vitro での肝細胞への侵入性および発育の初期段階を観察する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、令和2年度~令和3年度に実験用アカゲザルを用いたin vivo実験と、培養肝細胞を用いたin vitro実験の両者を実施する予定であった。しかしながら、令和2年度8月ごろから新型コロナ肺炎の流行拡大により、実験施設の出入りに自粛要請が出され、実験の進行が大幅に遅れた。特にin vitro実験については準備段階で停滞し、令和3年度の実験経費に繰越金が発生した。また本研究では、研究代表者および共同研究者が在籍する獨協医科大学(栃木県)、国立感染症研究所(東京都)、京都大学霊長類研究所 (愛知県)と、実験の実施場所である基盤研・霊長類医科学研究センター(茨城県)を連携させるために十分な旅費を計上していた。しかし、これも新型コロナ 肺炎の流行拡大により県境を越えた出張の自粛要請が発令され、当初の予定より出張回数が少なく、旅費に繰り越し金が発生した。したがって、次年度はin vitroを中心とした実験を実施し、種々の経費に繰越金を充当する予定である。
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