2020 Fiscal Year Research-status Report
栄養飢餓とバクテリアの細胞死 -生死選択の個体差の研究-
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20K07489
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
牧 泰史 大阪医科大学, 医学部, 講師 (60401733)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 秀司 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (60288735)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大腸菌 / 飢餓 / 定常期 / 寿命 / 遺伝子発現 / RNA |
Outline of Annual Research Achievements |
飢餓ストレスによる増殖停止の時期(定常期)が継続すると、大腸菌の場合、大部分は死ぬが一部の細胞は生存を続ける。この生死の運命選択は、細胞内でどの遺伝子がどんな機能を果たした結果なのか。これを明らかにするために、まずは細胞内のRNAの状態が細胞死の前にどのように変化するか調べた。過去の予備実験から、我々は最小培地の組成を変化させることで大腸菌の集団としての寿命を短期化・長期化することが可能となっている。これらの培養条件で準備した定常期の細胞を比較したところ、長寿命の条件下では細胞内のRNAの量が維持されていたのに対し、短寿命の条件下ではこれが低下していた。我々は、このRNA分解が積極的に起こるかどうかが細胞の運命選択を決定している可能性があると考えた。そこで、RNA分解の原因遺伝子の特定を目指し、RNA分解酵素について既報の遺伝子を含む9種の遺伝子欠損株を候補に選んで、そのRNAの蓄積量の経時的変化を定量PCR等により調べた。いずれかのRNA分解酵素遺伝子の欠損によって定常期のRNA蓄積量が維持される、という結果を期待していたが、実際は調べた株全てで定常期のRNA分解が進み、原因遺伝子の特定は継続課題となった。しかし、今回使用した遺伝子欠損株の中に、RNAの分解が野生株より亢進している株が見られた。またこの株は、飢餓ストレス解除後の再増殖に要する時間が野生株や他の欠損株より長期化することも確認され、この変異が再増殖を困難にしていることが明らかとなった。これらの結果は、細胞の増殖能の維持や生死の運命選択の原因遺伝子を探索する上で、RNAの分解という現象が一つの鍵となることを示唆するものであり、本研究を遂行する上で重要な進展となる結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、飢餓ストレス下で寿命と相関が見られる遺伝子を探索し、その動態・機能解析によって、定常期の生死決定メカニズムが発動される要因の解明を目的とする。本年度の研究により、RNAの分解という現象が、飢餓ストレス下での寿命に対して何らかの形で関与する可能性が出てきた。これが生死の決定とどう関係しているかは調査中であるが、現時点の結果は、次年度以降に計画していた研究内容の一部にあたるため、この部分で本研究は当初計画より進展している。一方で、上述の研究により、本年度計画していた網羅的な遺伝子解析は来年度まで継続することとなった。例えば、飢餓環境で優勢になると言われているゲノム変異(GASP : growth advantage in stationary phase)と寿命との関係の検証や、遺伝子の網羅的な発現解析による寿命決定遺伝子の探索は、本年度の準備をもとに来年度実施する予定である。以上を踏まえて、本研究の目的を遂行するための本年度の進捗状況は、全体としては概ね順調と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は現在のところ問題を生じておらず、今後も基本的な流れは当初の研究計画に沿って推進する。具体的には、飢餓ストレス下でのゲノム変異(GASP変異)や、寿命末期の網羅的な遺伝子発現解析などを次年度実施する予定であり、この準備は本年度から継続して行っている。また遺伝子解析の結果をもとに、細胞死の直前に特徴的に増減する遺伝子群を拾い出し、寿命マーカー遺伝子の候補探索や、その細胞内動態と機能の解析へと発展させる流れも、当初の研究計画通りすすめる方針である。一方で、本年度の研究により、RNAの分解が飢餓ストレス下での細胞の寿命と相関関係にある可能性が高まった。これが細胞死メカニズムの原因か結果かは不明であるため、次年度以降はこれを明らかにすべく、飢餓ストレス下でのRNA分解の原因遺伝子特定を目指す予定である。具体的には、機能解析する対象遺伝子の範囲を広げて、スクリーニングの規模を拡大することを計画している。また、細胞寿命を予測する指標としてRNAの分解または蓄積量を継続的にモニターする方法を模索し、本研究の推進に役立つツールを獲得したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は予定していた研究計画を拡張して、遺伝子欠損株を用いた機能解析をすすめた。これにより、本年度に計画していた遺伝子解析の実施を延期したため、そこに充てる予定だった本年度の研究費の一部を次年度に繰り越した。次年度は、この遺伝子解析の結果を踏まえて、ターゲットや条件を調整した上で追加の遺伝子発現解析を実施することが当初からの計画である。研究の流れが停滞しているわけではないので、次年度の計画に変更は無い。そのため、次年度の研究計画の遂行に必要な助成金と合わせて本年度の繰り越し分を使用し、次年度の研究を進める計画である。
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