2020 Fiscal Year Research-status Report
ヒト気道に潜む新規微生物(IOLA)の培養法の確立と遺伝的多様性の解明
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20K07491
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
福田 和正 産業医科大学, 医学部, 講師 (40389424)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 新規感染性微生物 / 呼吸器感染症 / ゲノム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
IOLA (Infectious Organism Lurking in human Airways)は、申請者らが慢性下気道感染患者由来の気管支洗浄液(BALF)検体から発見した新規細菌である。IOLAは細菌感染症患者から有意に検出され、病原性を有する可能性が示唆されるが、未だに分離培養が成功しておらず、その性状はほとんど不明である。IOLAの培養法を確立し、生きた状態での性状解析は、原因が明らかでない様々な呼吸器疾患へのIOLAの関与を解明するために必須である。 本年度は、IOLA感染実態と遺伝的多様性(16S rDNA配列ベース)の解明のため、鼻汁症状を呈する小児から吸引採取した鼻汁480検体(採取後-80℃で凍結保存していた)からDNAを抽出し、IOLAの16S rDNA特異的nested-PCRを行った。新たに得られた32のIOLA陽性検体から約1,200bpのIOLA16S rDNAの塩基配列を決定し、系統解析を行った。その結果、新たに得られた配列は、これまでに明らかにした5つの配列系統のいずれかに属することが明らかになった。少なくともIOLAには種のレベルで異なる可能性がある5つの分類群が存在することが明らかになった。また、本年度に採取できた新鮮な鼻汁78検体(採取後2日以内)から得られたIOLA陽性の4検体を用い、様々な気道関連細胞との共培養試験を行い、その内の1検体で鼻腔上皮細胞との共培養においてIOLAの増殖を示唆する結果を得た。極めて小さいゲノムを有する未知のヒト関連細菌であるIOLAの多様性およびIOLAの培養法に関する極めて有用な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、新鮮な気管支洗浄液(肺炎患者)および小児鼻汁検体を採取してIOLA陽性検体のスクリーニングを行い、可能な限り新鮮な状態の検体を用いてIOLA培養法の検討を行う予定であった。しかし、新型コロナ感染症の感染拡大の影響で、大学病院および市中クリニックでの新たな検体の採取が困難であった。その為、これまでに採取して-80℃で保管していた検体(福岡市および北九州市の小児クリニックで受診した小児から採取した合計480の鼻汁検体)を用い、DNAの抽出、IOLA特異的PCRを用いてIOLA陽性検体のスクリーニング、およびIOLA-16SrDNA塩基配列に基づく系統解析を中心に実施した。その結果、32検体からIOLA16S rRNA遺伝子が検出され、これまでに得られた48のIOLA陽性検体と合わせて80のIOLA陽性検体を得た。検出頻度は5.6%(80/1,440検体)であった。年齢に関しては2~3才で検出頻度が高い傾向が見られた。小児鼻汁由来のIOLAは、は、主に5つの16S rRNA遺伝子配列系統から構成されることが明らかになった。IOLA培養法の検討については、本年度新たに採取できた78検体の小児鼻汁のうち、IOLA陽性であった4検体を用いて実験を行なった。まだ予備実験の段階ではあるが、そのうちの1検体において鼻腔上皮細胞との共培養液中でIOLA-16S rDNAのわずかな増幅が認められた。未だ培養法の確立には至っていないが、培養条件に関しても全く情報がない状況で得られたこの結果は、今後のIOLA培養法の検討において非常に有力な手がかりになると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ感染症の動向にもよるが、今後も可能な限り新規な検体の採取を行い、新鮮な状態のIOLA陽性検体を用いたIOLA培養法の検討を中心に行う予定である。 2020年度の研究結果をもとに、鼻腔上皮細胞との共培養におけるIOLA増殖の確認(再現性の有無)、および条件の検討を行う。IOLAの増殖は、培地中のIOLAの16S r DNAのコピー数を計測し、その増加により判定する。IOLAの培養法の確立に成功した場合は、IOLAの細胞形態、宿主細胞内での局在部位、増殖速度、細胞障害性、保存方法(安定性)について検討する。また、培養上清と培養細胞から細菌DNAを抽出し、次世代型シークエンサーを用いてIOLAゲノム配列決定を行う。IOLAの培養法が確立できなかった場合、これまで得られたIOLA陽性検体からtarget capture法等により各検体に含まれるIOLAのゲノムを濃縮の検討を行い、ゲノム配列解析に供する。得られた配列を用いて全ゲノム配列に基づいた高精度系統解析を行い、IOLAの株間多様性を明らかにするとともに、疾患と関連するIOLA系統を同定し、その系統に特異的な遺伝学的特性(特定遺伝子の有無と一塩基多型を想定)を明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年度中に、産業医科大学呼吸器内科を受診した呼吸器疾患患者のBALFおよび喀痰(約50検体/年)、および市中小児科クリニックを受診した鼻汁症状を呈する小児の鼻汁(約400検体/年)を検体として採取する予定であった。しかし、新型コロナ感染症の感染防止の観点から研究用検体の採取が困難となり、当初の予定より採取検体数が少なくなった。その結果、購入予定であった検体採取容器や、IOLA培養法検討のための培地や培養容器が予定よりかなり少なくなった。また、開催予定の学会が全てオンライン開催になり、予定していた旅費を使用する必要がなくなった。以上の理由により予算の使用計画に変更が生じた。 2021年度は、検体の採取も今の所順調である為、繰り越された予算については今後のIOLA培養法の検討(検体採取容器、細胞用培地等の費用)、IOLAのゲノムレベルでの多様性解析、およびオープンアクセスジャーナルへの投稿に関わる費用として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)