2020 Fiscal Year Research-status Report
トキシン-アンチトキシン系を利用して薬剤耐性菌の拡大を抑える
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20K07493
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
大塚 裕一 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10548861)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トキシン-アンチトキシン系 / 大腸菌 / ファージ / 形質導入 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は3つの研究項目からなるが、そのうちの1つ「形質導入に対するトキシン-アンチトキシン(TA)系の抑制作用を明らかにする」について本年度実験を実施した。本項目の目的は、TA系がファージを介しておこる形質導入を抑える可能性を検証し、その抑制メカニズムを明らかにするものであり、その成果は形質導入による薬剤耐性菌の蔓延を抑える対策に繋がることが期待される。形質導入は、外界ストレスにより溶原ファージが誘発される過程(誘発)と溶原ファージ感染後にファージゲノムが細菌ゲノムに組み込まれる過程(溶原化)からなる。 大腸菌K12株のTA系が形質導入に与える影響を調べるために、K12株が持つ36種類のTA系のうち、トキシンがRNaseである11種類のTA系を全て欠失した株(11TA欠失株)とトキシンが細胞膜損傷を引き起こす16種類のTA系を全て欠失した株(16TA欠失株)の作製を試みた。現在11TA欠失株は作製済みであり、16TA欠失株については6種類のTA系の欠失まで終了している。11TA欠失株を用いて志賀毒素をコードするSp5溶原ファージの誘発を調べたところ、RNaseをコードするTA系の複数もしくはどれかが誘発を抑制することが示唆された。現在どのTA系が誘発を抑制するのか同定中である。同定後はトキシンの作用機序を参考にして抑制メカニズムの解明に取り組む予定である。Sp5ファージの溶原化についても調べたが、RNaseをコードする11種類のTA系は溶原化には関与しないことが示唆された。今後は16TA欠失株を作製して、細胞膜損傷を引き起こすTA系が溶原ファージの誘発や溶原化に与える影響について調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題は3つの研究項目からなるが、今年度は予定通り「形質導入に対するトキシン-アンチトキシン系の抑制作用を明らかにする」の研究項目を実施した。本項目は2つの実験計画からなるが、まず両計画に必要な2種類の多重欠失株の作製を試みた。1種類の多重欠失株は作製できたが、もう1種類は作製途中である。すでに作製した株については実験を進め、本項目の目的である、形質導入、特に溶原ファージの誘発に対するTA系の抑制作用を確認できた。現在抑制メカニズムの解明に取り組んでいる。当初の計画では、誘発と溶原化に対するTA系の抑制作用を検証し、その抑制メカニズムを解明する予定であったが、そこまで進まなかった。従って、本研究課題はやや進展が遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは本年度実施した研究項目の残りの実験を終了させる予定である。また、来年度実施予定の研究項目「形質転換および接合に対するトキシン-アンチトキシン系の抑制作用を明らかにする」の実験を速やかに実施する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度、研究代表者が研究活動以外の業務に多くの時間を取られたため、当初の予定より研究にかける時間が少なくなり、実験を計画通り実施できなかった。また、コロナ禍の影響で参加予定であった海外学会の開催が中止になった。以上が次年度使用額を生じさせた理由である。 実験の遂行に必要な機器、器具、試薬の購入に使用する予定である。また、国内外の学会や研究会への参加費、論文発表のための費用(英文校正費と論文掲載費)として使用する。
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