2022 Fiscal Year Research-status Report
トキシン-アンチトキシン系を利用して薬剤耐性菌の拡大を抑える
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20K07493
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
大塚 裕一 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (10548861)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | トキシン-アンチトキシン系 / 大腸菌 / ファージ / 形質導入 / 形質転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、トキシンーアンチトキシン(TA)系が遺伝子の水平伝播を抑える可能性を検証し、その抑制メカニズムを明らかにするものである。その成果は、薬剤耐性遺伝子の水平伝播により拡大する薬剤耐性菌の蔓延を抑える対策に繋がることが期待される。本年度は3つの研究計画のうち、2つの計画に取り組んだ。 計画①「形質導入に対するTA系の抑制作用を明らかにする」では、昨年度までに、大腸菌K12株が持つTA系が、溶原ファージの誘発を抑制するが、溶原化は抑制しないことを明らかにした。今年度は、TA系が誘発を抑制する分子機構の解明に取り組んだ。誘発に必須な遺伝子(ファージゲノムの切り出しや環状化、DNA複製を行う遺伝子)のmRNA量をRT-PCRで測定したが、野生型とTA欠失株で発現量に大きな違いは見られなかった。TA系のトキシンは大腸菌の増殖を阻害することで溶菌ファージの不稔感染を引き起こす。そこで現在、TA系のトキシンが誘発時に活性化して大腸菌の増殖を阻害することで、ファージの誘発が抑えられる可能性を検討している。 計画②「形質転換及び接合に対するTAの抑制作用を明らかにする」では、昨年度、大腸菌のRnlA-RnlB TA系がプラスミドの形質転換効率を約1/3に抑えることを報告した。形質転換時に、TA系のトキシンが活性化して大腸菌の増殖を阻害することで、形質転換効率が減少する可能性が考えられる。今年度は、この可能性について検討したが、現在のところこの可能性を支持する結果は得られていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本課題は3つの研究計画からなるが、これまでに計画①「形質導入に対するTA系の抑制作用を明らかにする」と計画②「形質転換及び接合に対するTA系の抑制作用を明らかにする」を実施した。計画①では、形質導入、特に溶原ファージの誘発に対するTA系の抑制作用を明らかにしたが、抑制するTA系の同定と抑制の分子機構の解明には至っていない。また、大腸菌のTA系はファージの溶原化に影響を与えないことも明らかにした。計画②については、RnlA-RnlB TA系が形質転換を抑制する新規の結果が得られた。現在抑制の分子機構の解明に取り組んでいる。当初予定していた「接合に対するTA系の作用」と計画③「TAを活性化するペプチド核酸が水平伝播を抑える物質として機能するかを検証する」については、未だ実験を開始していない。よって、本研究課題は進展が遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、今年度までに終了予定であった研究計画①と②の残りの実験を完了させて、研究成果を論文としてまとめる。さらに、研究計画③「TAを活性化するペプチド核酸が水平伝播を抑える物質として機能するかを検証する」についても実験を開始する予定である。
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Causes of Carryover |
「次年度使用額が生じた理由」研究活動以外の学内業務などに時間を取られたため、計画通りに実験を実施できなかった。また、コロナ禍の影響で参加予定であった海外学会に参加できなかった。以上が次年度使用額を生じさせた理由である。 「使用計画」実験の遂行に必要な機器、器具、試薬の購入に使用する予定である。また、国内の学会や研究会への参加費、論文発表のための費用(英文校正費と論文掲載費)として使用する。
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