2020 Fiscal Year Research-status Report
マダニ媒介新興リケッチア目細菌群の潜在する感染リスクに関する総合的解明
Project/Area Number |
20K07499
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
大橋 典男 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (10169039)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リケッチア目細菌 / マダニ |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、国内で知られているマダニ媒介新興リケッチア目細菌群による感染症は、Rickettsia japonicaによる日本紅斑熱とAnaplasma phagocytophilumによるアナプラズマ症である。さらに最近、我々の研究により、エーリキア症を引き起こす可能性のあるEhrlichia属菌の存在も明らかとなった。また、マダニには非病原性のRickettsiaも内在することから、マダニ内のこれらリケッチア目細菌群の総合的解析が求められる。Rickettsiaはマダニの卵を介して経卵伝播(垂直伝播)されるが、Anaplasma属菌とEhrlichia属菌は保菌動物が野生哺乳動物で、マダニは媒介動物となる(水平伝播)。当該年度は、総合的解析を目指して、マダニに内在する細菌群について、次世代シーケンサーを用いたメタ16S解析を行った。その結果、ヤマアラシチマダニにおいては、リケッチア目細菌として病原性R. japonicaあるいは非病原性Rickettsia G4のみを内在している個体、またこれらのRickettsiaとAnaplasma属菌あるいはEhrlichia属菌を持ち合わせている個体も存在することが判った。特に、1個体は、病原性R. japonica、非病原性Rickettsia G4およびAnaplasma属菌(微量のため種同定まではできなかった)の3種のリケッチア目細菌を保有していた。さらに別の1個体は、非病原性Rickettsia G4とAnaplasma capraと類似してるリケッチア目細菌を保有していた。A. capraは、中国で新たなアナプラズマ症の起因菌であるという報告がある。以上の研究成果は、複数のリケッチア目細菌を保有するマダニにより、ヒトへの混合感染が起こる可能性を示唆するものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、マダニに内在する細菌群について、次世代シーケンサーを用いたメタ16S解析を行った。その結果、ヤマアラシチマダニでは、リケッチア目細菌として病原性R. japonicaあるいは非病原性Rickettsia G4のみを内在している個体、またこれらのRickettsiaとAnaplasma属菌あるいはEhrlichia属菌を持ち合わせている個体も存在することが判った。その1個体は、病原性R. japonica、非病原性Rickettsia G4およびAnaplasma属菌(微量のため種同定まではできなかった)の3種のリケッチア目細菌を保有していた。また、別の1個体は、非病原性Rickettsia G4とAnaplasma 属菌の2種を保有していた。このAnaplasma属菌については、さらにgltA配列を解析した結果、中国で新たなアナプラズマ症の起因菌であるという報告があるA. capraと類似していることが判った。一方で、ツノチマダニからは初めてEhrlichia属菌が検出された。ツノチマダニは、病原性R. japonicaを保有することが明らかとなっており、ヒトへの混合感染を考慮する上で、今後さらなる解析が望まれる。このように、今回の解析により、マダニ1個体が複数の病原体を保有し、リケッチア目細菌によるヒトへの混合感染の可能性があることが明らかとなった。以上の研究成果は、リケッチア目細菌によるヒトへの混合感染のリスクを評価する上で、貴重な知見と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、さらにマダニの個体数を増やしてメタ16S解析を進めるとともに、マダニの各発育ステージにおけるリケッチア目細菌群について検討する予定である。マダニの発育ステージとしては、成虫、若虫、幼虫であるが、これまでの研究は、主に成虫と若虫が中心であった。幼虫については個体が小さすぎることから解析が困難で、ほとんど研究されていない。日本紅斑熱の場合、起因細菌のR. japonicaを媒介するマダニ種は、主に、ヤマアラシチマダニとツノチマダニで、R. japonicaはマダニ内で経卵伝播することから、マダニの発育ステージの成虫と若虫のみならず、幼虫のいずれにも存在する。また、Anaplasma属菌とEhlrichia属菌は水平伝播であるが、幼虫からも検出されたという報告が少数存在する。よって、今後は、この幼虫について、解析を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当該年度は、メタ16S解析を駆使し、マダニ1個体に複数のリケッチア目細菌の存在を明らかにし、ヒトに混合感染を引き起こす可能性があることが判るなど、多大な成果をあげた。今後は、リケッチア目起因細菌群による感染症におけるマダニ幼虫の関与について検討を進めたい。次年度繰越金は、そのための解析の費用に充てる予定である。
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