2020 Fiscal Year Research-status Report
HIVによるT細胞機能不全を回復する抗ミリストイル基ダイアボディによる治療法開発
Project/Area Number |
20K07526
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
林 宣宏 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (80267955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 抗体 / HIV / AIDS / ミリストイル化 / ダイアボディ / 2重特異性抗体 |
Outline of Annual Research Achievements |
“HIVはその遺伝子産物であるNefによって、本来は感染宿主細胞(T細胞)が使用している弱い相互作用に介在して効果的に細胞機能を停止している”、という申請者の研究に基づく仮説と、独自の抗体ライブラリー技術を用いて、NefがT細胞の機能を停止するのを阻止するダイアボディ(2重特異性抗体)を抗ミリストイル基抗体と抗Nef抗体を使って作製し、エイズ治療のための分子標的薬プロトタイプを開発する。 令和2年度は、AIDSの治療薬のプロトタイプになるダイアボディ(2重特異性抗体)を作製するためのふたつの抗体(抗HIV-Nef抗体と、抗ミリストイル基抗体)を開発した。 抗HIV-Nef抗体は、リコンビナントHIV Nefを固相化したイミュノプレートを用いたパニング(抗体ライブラリーを抗原に反応させることにより、目的抗体を取得する方法)により取得した(clone m342)。m342の抗原への結合力をSPR法で調べて、1.52×10^(-8)Mであることが分かった。また、ウエスタンブロッティング法により高い特異性を有することも確認した。さらに、そのエピトープ(抗原上の抗体に認識される部位)は、m342で標的としている部位とは異なることを確認した。 次に抗ミリストイル基抗体を、ミリストイル化Nefと、種類の異なるミリストイル化タンパク質であるミリストイル化F52を交互に用いたパニングにより取得した(clone r119)。r119の抗原への結合力をELISAで調べて、3.03×10^(-7)Mであることが分かった。さらに、複数のミリストイル化タンパク質を用いて、r119のミリストイル基認識の特異性を確認した。 これら二つの抗体を、抗体遺伝子が得られるという抗体ライブラリーの特性を活かして、遺伝子工学的に連結し、ダイアボディの遺伝子を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
抗体ライブラリーでは多種多様な抗体を短時間に取得できるメリットはあるが、通常の方法で得る場合に比べて、その抗原に対する特異性や結合力が弱い場合がある。しかしながら、今回得られた抗HIV-Nef抗体の性能(特異性、結合力)は、通常の方法で得られる抗体と遜色ないものであった。 他方、ミリストイル基は細胞の主要構成成分であるので、通常の方法ではそれを抗原とする抗体を得ることが出来ない。しかしながら、今回、抗体ライブラリーを用いて抗ミリストイル基抗体を得ることが出来た。 両者を遺伝子工学的に連結することも既に終えており、次年度よりダイアボディの作成をすぐに開始できる目処がたっている。さらに、現在進めている抗HIV-Nef抗体と抗ミリストイル基抗体以外の抗体クローンも取得できていて、もしも先に使用したクローンに不具合があることが分かった場合でも、別のクローンに切り替えることが可能である。 また、当該抗体薬の実用化において必要となる、標的細胞への導入のための分子部品(細胞に自立的に移入する分子針)の設計とダイアボディへの付加に関する検討も、既に開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
ダイアボディの遺伝子の作成を終えたので、リコンビナントタンパク質として調製し、順次、以下の項目を検討する。①抗原(HIV-Nef、および、ミリストイル基)に対する結合力と特異性を調べる:プロトタイプとして用いた抗体の結合力や特異性と比較して、ダイアボディにすることで抗体の機能がどう変化したかを調べる。②ミリストイル化の有無によりHIV-Nefに対する結合力と特異性がどのように変わるかを調べる:ダイアボディはプロトタイプとして用いたそれぞれの抗体よりも高い特異性と結合力を理論的には有する。その可能性を実験的に検証する。③in vitroでHIV-Nefと生体膜との相互作用をダイアボディが阻害するかどうかを調べる:生体膜に模した脂質ミセルとミリストイル化されているリコンビナントHIV-Nefの相互作用が、ダイアボディ共存下で阻害されるかどうかを調べる。④HIV感染モデル細胞にダイアボディを導入してその細胞の機能が回復するかを調べる:HIVnef遺伝子を導入することで機能不全(細胞表面からのCD4分子の消失)を起こしているHIV感染モデルJurkat細胞にダイアボディを導入することで、CD4が細胞表面に再度出現するかどうかを調べる。 また、自立的に細胞に移入させるための分子針をつなげたダイアボディとモデル細胞を混和することにより、分子針付きダイアボディが自立的に細胞に移入するかどうかを調べ、その結果、失われていた細胞機能が回復するかどうかを確認する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策のために、実地での研究活動量を大幅に低減したために、実験回数が減り、残額が発生した。また、当初見込みよりも問題なく研究が進んだために、経費が節約出来た。 今後は計画通りに研究を進めるとともに、当初の計画よりも先にまで進める計画も立案して本課題を遂行する。
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