2023 Fiscal Year Research-status Report
HIVによるT細胞機能不全を回復する抗ミリストイル基ダイアボディによる治療法開発
Project/Area Number |
20K07526
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
林 宣宏 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (80267955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 抗体 / HIV / AIDS / ミリストイル化 / 二重特異性抗体 / 抗体ライブラリー |
Outline of Annual Research Achievements |
“HIVはその遺伝子産物であるNefによって、本来は感染宿主細胞(T細胞)が使用している弱い相互作用に介在して効果的に細胞機能を停止している”、という申請者の研究に基づく仮説と、独自の抗体ライブラリー技術を用いて、NefがT細胞の機能を停止するのを阻止するダイアボディ(2重特異性抗体)を抗ミリストイル基抗体と抗Nef抗体を使って作製し、エイズ治療のための分子標的薬プロトタイプを開発する。 令和4年度は、先に作成したダイアボディ(2重特異性抗体)の性能が低いことが分かったので、新たに前年度までに取得していた複数のクローンから、抗HIVNef抗体と、抗ミリストイル基抗体のそれぞれに関してより性能の高いものを選んだ(モノクローナル化)。本年度は、それらをリンカーで繋いでダイアボディ(2重特異性抗体)を作製し、改めてその性能を評価する。 他方、抗体創薬で必要な、抗体への細胞移入能力を付与するために、ファージ粒子由来の細胞透過タンパク質を付与した新規機能性抗体を開発した。この機能部位を付与することで、接種されたダイアボディが標的細胞内に移入されて、病原分子の機能を阻害出来るようになる。昨年度は、この分子針を付与しても、抗体の機能が損なわれないことを確認した。今年度はその分子針を新たに作成したダイアボディに付与して、その細胞移入能を調べる。 さらに、先に作成した、機能アッセイに使用する、抗原(HEV Nef)を発現しているJurkat細胞を用いて、今後は細胞へ分子針が付加された抗体を導入し、導入後に細胞内で抗原抗体反応を確認すると共に、病原体により失われた細胞機能(CD4のダウンレギュレーション)の回復を確認することが課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
抗体ライブラリーでは多種多様な抗体を短時間に取得できるメリットはあるが、通常の方法で得る場合に比べて、その抗原に対する特異性や結合力が弱い場合がある。前年度までに、性能(特異性、結合力)が通常の方法で得られる抗体と遜色なく、さらに、パラトープ(抗原への結合部位)が異なる複数種類の抗体クローンが得られていることが示唆され、そのうちの一つを単離することに成功した(モノクローナル抗体の取得)。当該クローンは、本法で今後取得するクローンの基準となるものである。本年度は、当該クローンを用いて、抗体ライブラリーを用いた抗体開発の系の見直しと性能向上を行った。このことは、当該手法の汎用化のためのマイルストーンの一つであり、非常に重要な達成事項である。 他方、先に得られていた抗ミリストイル基モノクローナル抗体の性能解析のために、上述の系の最適化の過程で得られた、抗原のチューブやプレートへの固相化技術の応用の検討も開始した。 本研究では両者を繋いだダイアボディーの開発を目的とし、上述の二つのモノクローナル抗体を繋げて二重特異性抗体を作成し、その性能を評価するが、本年度のはそのための解析系の整備をほぼ終えることが出来た。 先に試験的に実施した実験で、当該抗体薬の実用化において必要となる、標的細胞への導入のための分子部品(細胞に自立的に移入する分子針)の設計と抗体への付与を行い、抗体機能が損なわれないことを確認しており、その本体となる二重特異性抗体のプロトタイプの作製の目処がたっているので、その性能が適切に評価出来れば実用化が加速される。
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Strategy for Future Research Activity |
先に作成したダイアボディを用いて、本年度整備した解析系を用いて、順次、以下の項目を検討する。①抗原(HIVNef、および、ミリストイル基)に対する結合力と特異性を調べる:プロトタイプとして用いた抗体の結合力や特異性と比較して、ダイアボディにすることで抗体の機能がどう変化したかを調べる。②ミリストイル化の有無によりHIV-Nefに対する結合力と特異性がどのように変わるかを調べる:ダイアボディはプロトタイプとして用いたそれぞれの抗体よりも高い特異性と結合力を理論的には有する。その可能性を実験的に検証する。 その性能が確認されたら、抗原を発現している細胞を作製済みなので、順次、以下の項目を検討する。③in vitroでHIV-Nefと生体膜との相互作用をダイアボディが阻害するかどうかを調べる:生体膜に模した脂質ミセルとミリストイル化されているリコンビナントHIV-Nefの相互作用が、ダイアボディ共存下で阻害されるかどうかを調べる。④HIV感染モデル細胞にダイアボディを導入してその細胞の機能が回復するかを調べる:HIVnef遺伝子を導入することで機能不全(細胞表面からのCD4分子の消失)を起こしているHIV感染モデルJurkat細胞にダイアボディを導入することで、CD4が細胞表面に再度出現するかどうかを調べる。 さらに、自立的に細胞に移入させるための分子針をつなげたダイアボディを作製し、これを、抗原を発現している細胞と混和することにより、分子針付きダイアボディが自立的に細胞に移入するかどうかを調べ、その結果、失われていた細胞機能が回復するかどうかを確認する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策のための研究の遅延から、研究環境の回復は想定よりも堅調に進んだ。しかしながら研究能力の回復は、研究者の再訓練などが必要で、非常に特殊で高いスキルを要する本研究で用いる技術の性能をもとに戻すことに想定以上の時間がかかった。それに伴い、研究の実務量が最初の算定より低減し、研究費に残額が発生した。 当該手法の再整備に経費をかけたが、より費用を要する本課題の後半部分には至らなかったので、本課題で目指している、「臨床で用いることが出来るダイアボディの開発」という目的を達成するために、先に開発した機能性分子(ダイアボディ)の生理機能の評価を生化学的に行うことに研究費を使用する。 現在は研究環境も能力も平時の状態に戻り活動が軌道に乗ったので、今後は当初計画を完遂するとともに、当初の計画よりも先にまで進めて、実用化のためのフィージビリティーを得るところまで本課題を遂行する。
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