2021 Fiscal Year Research-status Report
正常上皮細胞と変異細胞の境界で生じる相互作用メカニズムの解明
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20K07559
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
釜崎 とも子 北海道大学, 先端生命科学研究院, 特別研究員(RPD) (20384183)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞競合 / RasV12 / SrcY527F / 細胞膜 / BARファミリータンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
正常上皮細胞層に一個ないし数個の変異細胞が生じると、正常細胞に囲まれた変異細胞は、体外に相当する頭頂側に逸脱し、上皮細胞層から排除される。これまでに申請者は、正常細胞とRas変異細胞の境界に関する詳細な電顕観察と定量化を行うことによって、正常-Ras細胞間に生じる競合的相互作用の解析を進めてきた。正常細胞に隣接してRas細胞が出現すると、cdc42-FBP17経路を介した特徴的なfinger-like protrusionがRas細胞から正常細胞に向かって自律的に形成される。それに呼応するかのように、正常細胞側からもRas変異細胞の方へcdc42-FBP17によるfinger-like protrusionの形成が細胞非自律的に亢進する。この現象は、Ras変異細胞の正常上皮細胞層からの排除に重要であることから、申請者らはfinger-like protrusionを介した正常-変異細胞間の相互認識メカニズム ‘protrusion to protrusion response’ の存在を示唆した。Ras変異細胞の場合と同様に、正常細胞層に生じたSrc変異細胞も上皮細胞層から逸脱、排除される。申請者は、正常細胞、Ras変異細胞、そしてSrc変異細胞の単独培養の電顕解析を行った。その結果、正常細胞と比較してRas変異細胞の細胞間接着部位はfinger-like protrusionに富んでいるのに対して、Src変異細胞はfinger-like protrusionに乏しい形態だった。また、Ras細胞の場合とは異なり、Src細胞においてFFBP17は上皮細胞層からの排除に重要ではないことが明らかになった。以上の結果から、異なるがん原性変異によって、正常-変異細胞間認識メカニズムが多様に存在することが推測された。以上の成果を筆頭著者論文2報に纏め、受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度も昨年度と同様に、新型コロナウィルス感染症拡大防止対策のため、研究室への出入りが制限されることが何度かあったが、これまで申請者が日本学術振興会特別研究員RPDとして行ってきた研究成果 (19J40132) と本研究により得られた成果を併せて、筆頭・共責任著者論文を発表することができた。また、この論文の内容について日本顕微鏡学会にて口頭発表を行った際、完成度の高い研究として学会誌への投稿奨励の推薦を受けた。そのため、申請者が見出した正常-変異細胞間の相互認識を制御するfinger-like protrusionの微細構造学的特徴と、Src変異細胞におけるfinger-like protrusionに依存しない正常-変異細胞間相互認識の可能性を示した論文を作成した。この筆頭著者論文は、自身初となる単独責任著者論文である。3月末に受理され、間もなくオンラインで公開される予定である。本研究費では今後、申請者が特別研究員RPDの期間を通して申請者が行ってきた、正常細胞と変異細胞の細胞間接着部位に注目した電顕解析とそれを制御するBARタンパク質の探索・機能解析を引き継いで行う。本年度に発表したFBP17以外のいくつかの候補も挙がってきており、その中の一つについては、FBP17と同様にfinger-like protrusion形成と細胞競合に重要であるという結果が揃いつつあることから、現在、論文執筆に向けて準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に発表した正常細胞と変異細胞の相互認識の仕組み ‘protrusion to protrusion response’ においては、変異細胞の自律的なfinger-like protrusion形成に呼応して、隣接する正常細胞側からもfinger-like protrusionが伸長することで、変異細胞と正常細胞の境界で、細胞非自律的なシグナル伝達が行われることが想定される。この相互認識過程によってどのような物理的・生理的シグナルが授受されるのかを明らかにするため、今後も引き続き、混合培養下でFBP17を変異細胞側もしくは正常細胞側でノックダウンした際に増加もしくは減少するタンパク質を探索し、候補を絞る。また、細胞間接着部位のfinger-like protrusionの動態を超解像顕微鏡解析することにより、protrusion to protrusion responseの形態メカニズムを明らかにする。さらに、マウスの小腸上皮細胞層にRas変異細胞をモザイク状に誘導する系 (細胞競合モデルマウス) を用いて、in vivoにおける微細構造レベルの機能解析法の確立を進めることにより、FBP17やfinger-like protrusionが超初期がんの生体マーカーとなり得る可能性を探る。 今年度に行った電顕観察において、変異細胞を取り囲む正常細胞間の細胞接着部位にもcdc42-FBP17経路を介したfinger-like protrusionの亢進が認められた。一方、Cdc42-FBP17経路と細胞内カルシウム濃度の一過的な上昇 (カルシウムウェーブ) との相関や、カルシウムウェーブによる周囲の正常細胞の変異細胞方向への運動がこれまでに示唆されていることから、これらの現象におけるfinger-like protrusionの寄与の可能性および機能を調べる。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナウィルス感染症拡大防止対策として、研究室の出入りが制限されたため、一時的に研究活動時間を短くせざるを得ない状況であったことや、購入を予定していた機器類の納品が予想以上に大幅に遅れたことから、予算を来年度に繰り越すことになった。次年度には、新型コロナウィルス感染症拡大防止対策などによる影響をより予想しやすい状況にあると考えられるため、今年度よりも一層計画的に実験機器・消耗品・実験施設使用料などに予算を充てる予定である。
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[Journal Article] FBP17-mediated finger-like membrane protrusions in cell competition between normal and RasV12-transformed cells2021
Author(s)
Kamasaki T, Miyazaki Y, Ishikawa S, Hoshiba K, Kuromiya K, Tanimura N, Mori Y, Tsutsumi M, Nemoto T, Uehara R, Suetsugu S, Itoh T, Fujita Y
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Journal Title
iScience
Volume: 24
Pages: 102994
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] The CD44/COL17A1 pathway plays a vital role in the formation of multi-layered, transformed epithelia2021
Author(s)
Kozawa K, Sekai M, Ohba K, Ito S, Sakoh H, Maruyama T, Kaneko M, Shirai T, Kamasaki T, (他24名), Fujita Y
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Journal Title
Current Biology
Volume: 31 (14)
Pages: 3086-3097
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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