2020 Fiscal Year Research-status Report
乳がん幹細胞の可塑性における 抑制型Smadの機能解析
Project/Area Number |
20K07562
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤木 蓉子 (勝野蓉子) 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 客員研究員 (70771004)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 上皮間葉移行 / TGF-beta / 転写制御 / がん幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
TGF-βは、がん細胞の可塑性に関わる上皮間葉移行 (EMT) を誘導し、がん細胞の多様性や悪性化に重要な役割を持つ。我々は、これまでの研究で乳がん細胞においてTGF-βの刺激時間の差によって異なったEMTの状態を誘導し、それぞれのEMTの状態ががんの悪性化の異なったステップに寄与することを明らかにしている。本年度は、このシステムを用いてTGF-βに誘導されるEMTの過程で起こる転写の調節メカニズムを解析した。特に、Smad依存的な転写制御を調整し、転写の活性と抑制のバランスを決める分子メカニズムの解明のため、抑制型SmadであるSmad6とSmad7の役割の解析を進めた。モデルシステムとした乳がん細胞において、Smad6やSmad7の発現量を変えたいくつかの過剰発現細胞株を作成した。これらの細胞株においてTGF-βに誘導されるEMT の状態を比較し、Smad6やSmad7の発現量によりEMTやEMTに関連する形質、EMT関連遺伝子の発現が変化することを明らかにし、このことからSmad6やSmad7の発現量がEMTの調節において重要であることが示唆された。また、TGF-β応答性の正常細胞株を用いたin vitroの実験により、既に報告があるいくつかのTGF-β標的遺伝子をモデルとしてSmad6やSmad7による転写調節の分子メカニズムの解析を進めた。共免疫沈降アッセイやクロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイを用いてDNA配列上におけるSmad6やSmad7とR-Smad、転写共役因子との結合を調べ、Smad6やSmad7がDNA上でR-Smadに結合して直接転写を制御する可能性があることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、新型コロナウィルス感染症流行の影響により、研究活動が制限され、新しい実験を開始できない期間があったため、当初予定していた通りに実験を進めていくことが困難であった。TGF-βによるEMT誘導の際、Smad6やSmad7によって転写抑制を受ける遺伝子群の同定のための実験を開始する時期が遅れたため、予定していた標的遺伝子の同定までは至らなかった。しかしながら、Smad6やSmad7の発現量の異なるいくつかの過剰発現株を作成し、これらの細胞株においてSmad6やSmad7の発現量によりEMT関連遺伝子の発現が変化することを明らかにし、予定していたSmad6、Smad7標的遺伝子同定のためのモデルシステムは確立できた。今後、このシステムを用いて解析を進めることが可能である。また、研究活動制限の解除後にSmad6やSmad7による転写調節の分子メカニズムの解析を一定程度進めることもできた。以上のことから、研究の進捗状況としては、予定よりはやや遅れているが、遅れの程度は小さく、来年度以降の研究により当初予定していた通り研究を遂行することが可能であり、研究の大幅な変更等が必要な状況ではないと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で、乳がん細胞を用いてSmad6やSmad7の発現量の異なるいくつかの過剰発現株を作成し、これらの細胞株においてSmad6やSmad7の発現量によりTGF-βに誘導されるEMT に関連する形質、EMT関連遺伝子の発現が変化することを明らかにした。このSmad6、Smad7過剰発現細胞株を用いてTGF-β刺激を行った細胞と行っていない細胞の比較を行う。TGF-βによるEMT誘導の際Smad6やSmad7が転写調節部位に結合する遺伝子群を同定し、EMT誘導の過程における経時変化を調べる。さらに、同様の細胞での網羅的な遺伝子発現の解析結果と合わせて解析することで、Smad6、Smad7の転写調節部位への結合と遺伝子発現の変化との相関を明らかにする。以上の結果から、Smad6やSmad7によって転写調節を受け、TGF-βによるEMT誘導に重要な役割を持つと考えられる標的遺伝子群を同定する。さらに、同定したSmad6、Smad7標的遺伝子群のSmad6とSmad7による転写調節の分子メカニズムを解明する。この際、本年度行ったSmad6とSmad7によるTGF-β標的遺伝子の転写調節の分子メカニズムの解析結果を応用し、共免疫沈降アッセイやクロマチン免疫沈降 (ChIP) アッセイを用いてDNA配列上におけるSmad6やSmad7とR-Smad、転写共役因子との結合を調べる。さらに、これらのモデルシステムを用いてEMTに重要な標的遺伝子の転写制御におけるSmad6とSmad7のアルギニンメチル化の役割を明らかにする。本研究の遂行にあたっては、米国の共同研究者とemailやビデオ会議を通じて定期的に連絡を取り合っており、連携してデータの交換、ディスカッションを行い、研究を効率的に進めている
|
Causes of Carryover |
本年度行う予定だった実験の一部が新型コロナウィルス感染症の影響により当初予定より遅れて次年度実施予定になり、また、次年度行う分子メカニズムの解析には、培養細胞を用いた生化学実験を行う必要がある。これらの実験に用いるがん細胞株の培養、生化学、遺伝子工学実験試薬にかかる経費が必要であり、今年度分の一部を次年度使用額とした。
|