2023 Fiscal Year Research-status Report
がん細胞の複製ストレスを解消する新規lncRNAの機能解明
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20K07570
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 美穂 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (80548470)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 長鎖非翻訳RNA / がん細胞 / 複製ストレス / R-loop |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞に特徴的な高い複製ストレスは、ゲノム不安定性をもたらし、発がんの促進やがんの進展を加速させることがよく知られている。しかし、がん細胞が高い複製ストレスに晒されながらも、複製を完了させ細胞増殖していく機構は完全に解明されていない。私たちはこれまでに、複製ストレスによって発現が誘導される長鎖非翻訳RNA (lncRNA)、TUG1を同定した。タンパク質をコードしないlncRNAは近年DNA損傷修復との関連が報告されているが、私たちはTUG1がDNA損傷の原因となるR-loopを解消する役割をもつことを明らかにした。次に、TUG1と相互作用しDNAの複製ストレスから生じるDNA損傷を防ぐ機能をもつタンパク質DHX9を同定し、DHX9とTUG1が細胞内で直接結合していることを実験的に示した。TUG1が解消するR-loop領域は、数kbにわたってマイクロサテライト配列を含む特徴的なリピート配列であり、定常状態でもR-loopを蓄積しやすい領域であった。つまり、TUG1はR-loopを形成しやすくDNA損傷を受けやすい領域を標的とし、その領域のR-loopを解消することでゲノムDNAを損傷から守る機能を果たしていることがわかった。最後に、TUG1を標的とする治療の効果を調べるため、脳腫瘍同所移植モデルを用いた動物実験を行った。R-loopを蓄積する抗がん剤を併用したところ、TUG1の発現抑制が腫瘍の増殖を顕著に抑えることを見出した。この研究結果をまとめ、論文として発表した(Suzuki and Iijima et al., 2024 Nature Communications)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
テモゾロミド (TMZ) は膠芽腫治療の第一選択薬であるが、その効果や臨床応用には限界がある。そこで、TUG1を標的とした治療が膠芽腫に対する有効な治療アプローチであるかどうかを検討した。はじめに、膠芽腫細胞株LN229において、TUG1がDHX9とR-loop領域に共局在し、R-loopを解消することを示した。次にアンチセンス核酸 (TUG1 ASO) によるTUG1ノックダウン、またはTMZの投与によってRNA/DNAハイブリッドが蓄積すること、またTUG1ノックダウンとTMZを併用することでさらにRNA/DNAハイブリッドの蓄積が促進し、相乗的にアポトーシスが誘導されることを明らかにした。LN229細胞を移植したマウスモデルを用いた実験では、腫瘍特異的薬物送達システム(Drug delivery System)とTUG1 ASOを組み合わせたantiTUG1-DDSの効果を検討した。TMZとantiTUG1-DDSを併用した場合、TMZ単独またはantiTUG1-DDS単独よりも効果的に腫瘍の成長を抑制し、マウスの生存期間を著しく延長した。antiTUG1-DDSで治療された腫瘍では、TUG1の発現が減少し、R-loop量が上昇していることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はTUG1に加えて、がん細胞の複製ストレスの解消に関わる新規lncRNAの同定を行う。R-loopと相互作用するlncRNAを網羅的に回収し、RNA-seqを行う。新規に同定されたlncRNAについて、R-loopを解消する機能の有無を検証する。
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Causes of Carryover |
コロナ対応により動物実験に遅延が生じたため、計画が後ろ倒しになっており、新規lncRNAの同定が翌年度へ延期した。がん細胞の複製ストレスの解消に関わる新規lncRNAの網羅的同定のためのRNA-seq試薬や解析費用、同定したlncRNAの機能解析のための試薬代に充てる。
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