2020 Fiscal Year Research-status Report
RNF168が制御する新たなRNA代謝経路とそれが寄与するがん増殖の分子機構
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20K07578
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
渡邉 健司 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がん生物部, 研究員 (80404333)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | DNA二重鎖切断 / 転写機構 / RNA代謝経路 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNA二重鎖切断(DSB)のごく近傍のクロマチン上でヒストンH2AXがユビキチン化されることが知られている。その際、DSBにBRCA1、RNF168、RAD18及びRNF8に代表されるユビキチンライゲースがDSBに応答しDSB周囲のクロマチンにリクルートされることが知られている。これらのE3ライゲースがクロマチン上でそれぞれ対応する基質をユビキチン化することにより細胞内では細胞周期の一時的な停止やDSBの修復反応が促進されることが知られている。そのうちRNF168はヒストンH2AXのユビキチン化を促進する重要なユビキチンライゲースである。先行研究においてRNF168が細胞内で生じたDSBに応答し同部にリクルートされ、RNF168によるヒストンのユビキチン化反応を介して切断された遺伝子上で転写をまさに行っているRNA polymeraseIIの転写を抑制する機構が存在することが知られている。しかしながら、RNF168の基質はヒストンH2AX以外にほとんど報告されておらず、RNF168が直接的に転写機構やRNA代謝経路に関与することを示唆する報告はない。RNF168ノックアウトマウスを用いた先行研究より、RNF168はp53と協調し遺伝子の不安定性化を抑制しがん抑制遺伝子としての機能が知られている。本研究において、このRNF168がRNA関連タンパク質のユビキチン化を介してRNA代謝経路を制御している機構と、がんの増殖進展への寄与を、主にスプライシング機構および核小体機能に着目し解明する。従来RNF168はDNA損傷修復に関わることのみが知られていたが、本研究では新たに、がんにおいてはRNA代謝を制御する機能も持つことを明らかにする。さらに本研究はがんに特異的な分子標的薬の開発に道筋をつけると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以前に行っていた予備実験の結果、RNF168の基質と考えられる候補タンパクの中から、すでにRNA転写およびスプライシング機構に関与することが報告されているタンパクを選択し実際にそれらのタンパクが細胞内でRNF168依存的にユビキチン化されるかについて検討した。またその基質のユビキチン化がDNA二重鎖切断(DSB)やRNAの転写阻害を含めた種々の細胞ストレスに依存して増加するかについて検討した。実際骨肉腫の細胞株であるU2OS細胞を用いてRNF168の基質候補タンパクのユビキチン化を確認したところ、基質のユビキチン化はDSB誘導やストレスを細胞に与える以前から認められた。更にはこのストレスを与える以前のユビキチン化はRNF168依存的であることが分かった。このことはRNF168が細胞ストレスやDSBが生じる以前より、恒常的に転写機構をユビキチン化し制御している可能性があることを示唆している。COVID19蔓延の影響で自宅待機を余儀なくされる期間があったため当初予想された実験計画よりも実際の実験遂行が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
RNF168の結合タンパク質候補の1つであるDNA/RNAヘリケースであるDHX9に着目し実験を行う予定である。申請者は、細胞に外的ストレスを与えない状態でもRNF168とDHX9の複合体が観察されること、及び転写のco-activatorであるCBP、RNAポリメラーゼII(pol II)がその複合体内に同時に存在することを見出している。RNF168がユビキチン化反応を制御するE3ライゲースであることより、DHX9はその基質の1つと考えられる。DHX9のユビキチン化は細胞ストレスを与える以前よりある程度観察されるため、RNF168によるDHX9のユビキチン化は細胞内で恒常的になされ、このユビキチン化を介してRNF168が恒常的に転写機構を制御している可能性が高いと考えられた。先行研究において、がん細胞では正常細胞と比較して恒常的にストレスに暴露されていることが知られている。この実験で用いた細胞はがん細胞であるため、細胞ストレスを与える前からこのようなRNF168によるユビキチン化が観察されていることが興味深い。このことは、がん細胞においてRNF168がDHX9をユビキチン化することにより、転写機構を制御しがん細胞に恒常的に生じるストレスを回避しその増殖を促進している可能性を示唆している。今後はRNF168とDHX9の関与する転写制御機構に着目し、がん細胞および正常細胞におけるDHX9のユビキチン化の意義を明らかにしていく。
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