2023 Fiscal Year Research-status Report
発がんにおけるDNA損傷・修復ダイナミクスの実像解明
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20K07588
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
赤塚 慎也 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (40437223)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
豊國 伸哉 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (90252460)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 発がん / ゲノム解析 / 次世代シークエンシング / ゲノム傷害 / ゲノム変異 / クローン進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内で生じる活性酸素種等によるゲノムDNAの損傷は、発がんの原因になると考えられている。したがって、がんの発生経路を詳細に解析するためには、発がんの過程にある細胞のゲノム内におけるDNA損傷の分布動態を知ることが重要となる。本研究では、損傷DNAに対する免疫沈降産物の網羅的解析を次世代シークエンシングに基づく新たなアプリケーションとして確立し、発がん過程におけるDNA損傷のゲノム分布動態を解明することを目的とした。さらに、持続的な発がん刺激の下での、標的臓器細胞のゲノムにおける変異の発生頻度および変異細胞クローンの拡大過程の分析を試みた。統合的には、発がんプロセスの時系列におけるゲノム進化動態の段階的発展として観測した。 本研究課題では、鉄ニトリロ三酢酸誘発げっ歯類発がんモデルを用いた。ゲノム損傷の分布解析に当たっては、野生型およびOGG1欠損型のC57BL/6マウスを用いた。鉄ニトリロ三酢酸の初回投与後、標的臓器となる腎臓の組織細胞よりゲノムDNAを抽出し、さらにそれを断片化したサンプルに対して抗8-オキソグアニン抗体により免疫沈降を実施した。回収されたDNA断片を次世代シークエンシングによりゲノムへマッピングし、酸化的DNA損傷のゲノム内分布解析を行った。マッピング後のデータ解析方法はChIP-seqの解析パイプラインに準じた。本年度は新たに学術研究支援基盤「先進ゲノム支援」に応募し、バイオインフォマティクス研究者からの解析支援を受けた。期間延長後はさらに、3か月にわたる50~60回の鉄ニトリロ三酢酸投与(実際の腎発がんに必要な長期的刺激)を終了した後の標的臓器におけるゲノム変異細胞のクローン拡大状況を分析した。前がん段階において、高頻度欠失座位を欠失したクローンの拡大が観測できることが、デジタルPCRにより確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の当初の研究期間(3年間)は、新型コロナウイルス感染症流行によるパンデミック期に当たり、研究活動における様々な支障や教育業務の増加があり、課題推進に影響を受けた。また、関連研究の新しい報告に対応して実験原理の再評価と見直しの工程が加わったことにより、次世代シークエンシングによる解析の実施時期が後ろへずれ込むことになり、全体に若干の遅れが残った。さらに、一度目の次世代シークエンシングの結果から、ゲノム損傷分布間の差異を評価するデータ解析手法の検討が必要となり、支援基盤への応募から採用後の情報交換を含めて時間を要した。 具体的な進捗内容としては、ゲノム損傷分布解析については、免疫沈降実験まで戻っての改善点が検討できた。変異細胞クローン進展分析については、デジタルPCRによる新たな取り組みとして実施した。発がん感受性の異なるマウス系統間で、本発がんモデル高頻度に欠失が見られる座位に関して、当該座位欠失クローンの拡大状況が異なることが見いだされた。
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Strategy for Future Research Activity |
1年の期間延長での、残りの課題項目とその実施計画は整理されている。本年度に得られた(ChIP-seq解析に基づく)シークエンスデータのさらなる詳細分析を実施する。マッピングされる座位(配列)によるシークエンスリードの頻度バイアスに関して分析し、8-オキソグアニン分布のより真に近い像として描出する。変異細胞クローン進展分析については、同条件サンプルの追加とデジタルPCR試行回数の増加を実施し、実験のばらつきによる誤差を排除したうえで、生物学的結論を導く。
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Causes of Carryover |
本研究課題の研究期間は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック発生と時を同じくして始まった。その影響を受け、研究活動における様々な支障や教育業務の増加があり、課題推進に大きく障害された。また、関連研究の新しい報告に対応して実験原理の再評価と見直しの工程が加わったことにより、次世代シークエンシングによる解析の実施時期が後ろへずれ込むことになり、全体に若干の遅れが残った。さらに、一度目の次世代シークエンシングの結果から、ゲノム損傷分布間の差異を評価するデータ解析手法の検討が必要となり、支援基盤への応募から採用後の情報交換を含めて時間を要することになった。これらの要因により、一部費用を次年度へ持ち越すことになったが、延長期間で残りの課題項目は整理されており、最終的に計画を完遂できる予定である。
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