2021 Fiscal Year Research-status Report
成人T細胞白血病・リンパ腫におけるDNAメチル化異常の細胞生物学的意義の解明
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20K07593
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
渡邉 達郎 佐賀大学, 医学部, 特任教授 (20595714)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
末岡 榮三朗 佐賀大学, 医学部, 教授 (00270603)
服部 奈緒子 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (30611090)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ATL / DNAメチル化 / 薬剤耐性 / 核酸代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、原因であるHTLV-1の感染から成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の発症、病態の進展に伴って、HTLV-1感染細胞、及びATL細胞に特徴的なDNAメチル化亢進異常が形成されること、DNA脱メチル化剤が抗ATL効果を示すことを見出した(Blood 2020)。 2021年度においては、DNA脱メチル化剤の抗ATL効果の作用機構を明らかにするために、細胞株であるMT-2細胞、TL-Om1細胞にDNA剤としてアザシチジン(AZA)、デシタビン(DAC)をそれぞれ長期曝露し、樹立した耐性株を用いて、作用機構の解明を試みた。TL-Om1細胞のアザシチジン耐性細胞(AZA-R)では、ウェスタンブロット法でUCK2タンパク質が検出されず、デシタビン耐性細胞(DAC-R)ではDCKタンパク質が検出されなかった。それぞれの細胞について、全ゲノムシーケンスを行い、親株と比較すると、AZA-RではUCK2遺伝子のスプライスドナー部位に点突然変異が認められ、mRNAをシーケンスしたところ、スプライシング異常が検出された。一方、DAC-RではDCK遺伝子の最終エクソンと3’-UTRを含む欠損が認められた。MT-2のAZA-R細胞、DAC-R細胞ではそれぞれ、UCK2とDCKタンパク質量が半減していた。 UCK2とDCKはそれぞれ、AZAとDACのモノリン酸化を触媒し、活性化体へ変換する際の律速酵素であるため、それぞれの不活化が耐性化に寄与していることが予想された。TL-Om1 AZA-R細胞にUCK2を、DAC-R細胞にDCKをレンチウイルスベクターにより遺伝子導入し、発現を回復させるとそれぞれ耐性細胞において、感受性が復帰したことから、UCK2とDCKの活性がアザシチジン、デシタビンの感受性を規定すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下の3つの学術的問いを明らかにすることを目的としている。 ① DNAメチル化異常がHTLV-1感染細胞の増殖・生存にどのように働きかけるのか?② DNA脱メチル化剤の抗ATL効果の作用機構・標的分子は何か?③ HTLV-1感染細胞におけるDNAメチル化異常は なぜ、どのようにして起こるのか? ①に関しては、2020年度において、THEMIS遺伝子のプロモーターメチル化によるサイレンシングが感染細胞のT細胞受容体(TCR)シグナル調節を破綻させることを明らかにした。②に関して、2021年度に耐性株を用いたか解析から、概要に記したように、代謝酵素(UCK2, DCK)の変異やタンパク質発現量の変化により、DNA脱メチル化剤の感受性が変化することを発見した。また、UCK2についてはATLの発がん過程において、HTLV-1感染細胞で高発現しており、ATLの発がんにも関与していることが予想された。 ③に関しては、細胞株を低メチオニン環境に曝した際に、細胞内のメチオニン代謝産物量が変化し、メチル化修飾の際にメチル基供与体として用いられるS-アデノシルメチオニンが顕著に減少し、DNAのメチル化が減少することを見出している。現在は、その他のシグナル経路(TCR-NF-kB, JAK-STAT3等)がDNAのメチル化の制御に関わるか検討を進めている。全体的な計画は概ね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
HTLV-1感染細胞、ATL細胞にDNAメチル化亢進異常が形成される機構について、メチオニン代謝が関与することを示唆する結果が得られているため、どのような遺伝子のメチル化がメチオニンの変化により変動するのか、網羅的DNAメチル化解析から検討する。さらに、DNAのメチル化が変動する低メチオニン環境において、どのような遺伝子発現変化が起こっているのか、RNA-seqにて検討し、エピゲノム変化と遺伝子発現変化のリンクを明らかにする。 DNAメチル化を触媒するDNMT1の遺伝子発現について、遺伝子発現データベース解析から、HTLV-1感染細胞は非感染T細胞に比べて、発現が亢進していることを明らかにした。他のがん細胞において、DNMT1発現に寄与することが示唆されているシグナルの内、ATLにおいても異常が指摘されているシグナル経路として、TCR-NF-kB, JAK-STAT3経路等が挙げられる。そこで、上記のシグナル経路の異常がHTLV-1感染細胞、ATL細胞におけるメチル化異常に関与するか、阻害剤を用いた実験等により検証する。 アザシチジンの感受性に関与する因子としてUCK2を見出したが、UCK2はATLの発がん過程において、HTLV-1感染細胞で高発現しており、ATLの発がんにも機能的に関与していることが予想された。そこで、ATL細胞におけるUCK2の機能についても、不活化の際の表現型と比較して解析を続ける。
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Causes of Carryover |
研究分担者の消耗品(採血管等)の購入費に余りが生じたため。翌年度の物品費の購入等に合わせて使用する。
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Research Products
(10 results)
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[Presentation] メチオニン代謝を介した HTLV-1 感染細胞のエピゲノム調節2021
Author(s)
渡邉達郎, 吉田奈央, 山本雄大, 嬉野博志, 蒲池和晴, 倉橋祐樹, 倉橋佑紀, 中村秀明, 服部奈緒子, 山下 聡, 岡田誠治, 牛島俊和, 末岡榮三朗, 木村晋也
Organizer
第7回日本HTLV-1学会学術集会