2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K07616
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Research Institution | Baika Women's University |
Principal Investigator |
山崎 大輔 梅花女子大学, 食文化学部, 准教授 (50422415)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 大腸がん / 浸潤 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸発がんモデルとして広く用いられるApc遺伝子ヘテロ欠損マウスでは、腸に多数のポリープが形成されるが、それらの大部分は上皮組織にとどまる良性の腫瘍である。Apc遺伝子ヘテロ欠損マウスの寿命は、野生型マウスのそれと比較して短いため、このマウスを利用して加齢に伴う遺伝子変異の蓄積が腫瘍に与える影響を調べることは難しいと考えられてきた。そこで比較的体格が良いICRマウスとApc遺伝子ヘテロ欠損マウスを交配させたところ、交配以前の系統では10ヶ月でほぼ全てのマウスが死んでいたのに対して、寿命が延長され生後一年を超えて生存する個体も確認できるようになった。そこで10ヶ月齢を超えたマウスの腸から腫瘍を回収したところ、個体によっては半数以上の腫瘍で筋層への浸潤が確認された。こうした結果から、この系統のマウスを利用すれば腸に形成される腫瘍が加齢により悪性化する様子を観察できることがわかった。また、この系統のマウスの腸には、同一個体において良性の腫瘍と悪性の腫瘍が共存することから、両者の違いを個体差を考えることなく検討することができる利点がある。そこで、同一個体から回収した良性の腫瘍と悪性の腫瘍における遺伝子発現の違いを検討したところ、悪性腫瘍では良性腫瘍と比較して腸上皮にある分化細胞で分泌系細胞の一つパネート細胞のマーカー分子リゾチームの発現が上昇していることがわかった。これは前年度までに得ていた「分泌系細胞が大腸がんの浸潤に関与する」という仮説を支持している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、年度開始時に研究環境を移動させたため、細胞生物学的・分子生物学的な実験を開始するのに思いの外時間がかかり、当初予定していた実験を十分に行うことができなかった。しかし、移動までに回収していたサンプルの解析を通して、腸にできた腫瘍が加齢により悪性化する様子を観察できるモデルマウスが構築されたことがわかった。これは本研究課題を進めるに当たっては、重要な進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
腸発がんモデルを利用して見出した「分泌系細胞が大腸がんの浸潤に関与する」可能性を検証するため、リゾチーム以外にも分泌系細胞の分化に関わる遺伝子の発現が、大腸がんでどのように変化しているのかを調べる。具体的には、遺伝子発現に関する各種データベースを利用して、パネート細胞の分化に関与する遺伝子群の発現が大腸がんの悪性化に伴いどのように変動しているのかを検討する。また、大腸での発がんやがん悪性化への寄与が報告されているApcやSmad4が、大腸がん組織においてがん細胞が分泌系細胞へと分化するのに与える影響を、両遺伝子が欠損した細胞を利用して調べる。
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Causes of Carryover |
当該年度は研究環境の移転により、予定していたApc、Smad4二重遺伝子欠損細胞に対する細胞生物学的・分子生物学的解析を行うことができなかった。したがって、これらの解析に用いる培養に必要な器具や試薬、また遺伝子発現を調べるための試薬を購入するための費用を使用しなかった。次年度では、計画通りこれらの実験器具や試薬などを購入し、実験を行う予定である。
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