2020 Fiscal Year Research-status Report
IL-18阻害抗体をもちいた新規膵がん治療法の開発
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20K07635
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
加美野 宏樹 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 特任助教 (00625692)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浦野 健 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (70293701)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | IL-18 |
Outline of Annual Research Achievements |
IL-18は炎症性サイトカインの一つで、Caspase-1/4による切断により活性型IL-18 (cIL-18)となる。IL-18は膵がんをはじめ複数のがん患者血清中やがん組織内での高値が報告されているが、その発生機序やがんへの影響については不明な点が多い。本研究課題では特に膵がんに着目し、がん細胞やがん微小環境に対するIL-18の役割を明らかにするとともに、作製したcIL-18特異的抗体を利用して、がんの診断や治療応用への可能性を探索する。 これまでヒト膵がん細胞株MIA PaCa-2に抗がん剤フルオロウラシル(5-FU)を添加するとcIL-18が誘導されることを見出した。この現象がin vivoでも見られることを検討するためMIA PaCa-2担がんマウスを作製し、5-FU投与によるcIL-18誘導を検討した。ELISAによる解析をおこなったところ5-FU投与の有無にかかわらず血液中にヒトIL-18が検出されたが、cIL-18の存在については検出感度外のため確認できなかった。担がん腫瘍を用いた免疫染色による検出を予定している。 一方で別の実験から、ヒトcIL-18はマウスIL-18受容体に反応しない可能性が示された。マウスを扱う実験は全てマウス由来の資材で進める必要がでてきたため、われわれは活性型マウスIL-18タンパク質の作製、ならびにマウスcIL-18に対する新規特異的抗体を複数作製した。またその抗体のなかには機能阻害効果をもつ抗体があることも確認できた(論文投稿準備中)。 別の課題であるヒト膵がん組織におけるcIL-18検出については、大学院生とともに実験を進めてきた。われわれの作製した抗体がホルマリン固定標本を用いた免疫染色に使用できることを確認したため、現在30例程度の膵がん組織について検討を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウスがん細胞にヒトおよびマウスのcIL-18タンパク質を添加して反応を観察していたところ、マウスcIL-18で見られる反応がヒトcIL-18では見られないことが明らかとなった。このことはヒトcIL-18がマウスIL-18受容体に結合できないことを示唆する。そのため当初予定していたヒト膵がん細胞を用いた一連の担がんマウス実験については見直しが必要となった。 担がんマウスモデルを使った実験を進めるためには、研究目的に合致する細胞株の準備が必要である。またマウスのcIL-18タンパク質およびそれに対する抗体、とくに阻害効果をもつ抗体は重要な資材となる。まずは資材づくりを急務とし、これまでマウスcIL-18を認識する新規抗体の作製、ならびに阻害効果を持つ抗体の単離・精製に成功した。この成果については論文投稿の準備を進めている。また並行して、MIA PaCa-2細胞で観察されていた5-FU処理によるIL-18活性化を模倣するマウス細胞のスクリーニングを進めている。 一方でIL-18活性化に5-FUがどのように関わっているのかについては未だ明らかではない。われわれは低栄養状態が膵がん細胞内でのIL-18切断を誘導すること、また5-FUはその現象を増強させている可能性があることを見出した。またCaspase-1/4以外の切断機序が関係していることを示すデータも得ている。低栄養状態は腫瘍内部ではよく観察される現象であり、腫瘍局所で報告されてきたIL-18高値の理由となるかもしれない。 当初の予定を見直さざるを得ない点もあったが、見直しを克服するための研究が着実に進められており、主たる研究目的に対しては概ね順調に推移している。マウス実験も並行しながら、引き続きIL-18活性化のメカニズムやcIL-18のがんに対する影響を詳細に検討していく。
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Strategy for Future Research Activity |
マウス細胞はヒトcIL-18に対して反応しないことが明らかになったため、ヒト膵がん細胞株MIA PaCa-2を使用した担がんマウス実験は計画を見直す必要が出てきた。マウスIL-18についての資材(活性能を持つリコンビナントタンパク質や各種抗体)は作製できたので、研究に適応するマウスがん細胞のスクリーニングを進める予定である。代替可能な細胞が見つかり次第、計画していた研究課題を進めていく。また、マウスcIL-18に対する新規の機能阻害抗体が作製できたため、論文にまとめて報告する予定である。マウス細胞株を使用した担がんマウス実験となる場合、免疫不全マウスを使わなくても済む可能性がある。研究課題でもあるcIL-18阻害抗体を利用したマウス実験を改めて計画・進行し、免疫系も含めてcIL-18阻害ががんに与える影響を明らかにしたい。 一方で5-FUによるcIL-18誘導メカニズム、さらには誘導されたcIL-18が周囲の組織に与える影響についても研究を進める。膵がん組織でも観察される低栄養状態がcIL-18誘導に影響している可能性を見出しているため、5-FUとの相乗作用について詳細を明らかにする。さらにはcIL-18が与えるがん微小環境への影響について、がん関連線維芽細胞(CAF, cancer associated fibroblasts)を利用した研究を予定している。 免疫組織化学染色によるヒト膵がん組織でのcIL-18発現や局在の解析についても引き続き検討していく。IL-18とがんとの関係を少しでも明らかにし、診断や治療に応用できるような情報を提示していきたい。
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