2021 Fiscal Year Research-status Report
低酸素下にある慢性骨髄性白血病幹細胞に対する新規治療法の構築
Project/Area Number |
20K07644
|
Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
岡部 聖一 東京医科大学, 医学部, 講師 (40366109)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片桐 誠一朗 東京医科大学, 医学部, 助教 (50532298)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 分子標的薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性骨髄性白血病(CML: chronic myeloid leukemia)は、多能性造血幹細胞の異常によって発症する、骨髄増殖性腫瘍である。90%以上の症例に9番と22番染色体の相互転座t(9; 22)である、フィラデルフィア染色体が認められる。BCR-ABL1遺伝子がCMLの発症に関与し、BCR-ABLチロシンキナーゼタンパクにより、細胞増殖、アポトーシスの抑制があり、Ph陽性細胞が無秩序に増殖する。イマチニブをはじめとしたABL阻害薬により、治癒に至る症例が存在すること、また治療後も骨髄中に白血病細胞が残存することが示されている。造血幹細胞は、多分化能や自己複製能を維持しており、骨髄中のニッチと呼ばれる特別な微小環境に存在し、生存が維持されている。CMLを含む、白血病細胞でも幹細胞が存在し、ニッチにみられることが示唆されている。骨髄中では、造血幹細胞は、多分化能や自己複製能を維持しており、ニッチと呼ばれる微小環境に存在する。また骨髄中は低酸素下の環境にある。低酸素下での白血病幹細胞の維持、増殖には、複数の分子が関与し、代謝変化が薬剤の耐性化に働くと考えられるが、どの分子がドミナントな役割を果たしているのか、不明である。本研究では、低酸素状態での白血病幹細胞の細胞内分子を検討し、再発への関わり、新たな創薬による効果を細胞培養、動物実験にて検討し、慢性骨髄性白血病の再発、低酸素下での性状について、白血病幹細胞を取り巻く免疫学的な環境について検討を行い、慢性骨髄性白血病の病態の解明と新たな創薬へとつなげることを目的としている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
低酸素応答機構では、赤血球産生や血管新生などに関連した遺伝子発現が誘導され、エネルギー産生経路は、ミトコンドリアに依存しない解糖系に切り替わる(代謝リプログラミング)。この低酸素誘導性代謝リプログラミングでは、HIFによる遺伝子発現誘導に加え、酸素や代謝産物・基質の量的変動によって変化する。悪性腫瘍である、がん細胞では正常細胞のエネルギー代謝とは大きく異なっている。骨髄中は低酸素状態下である。低酸素応答は低酸素環境下における恒常性の維持に働く機構であるが、低酸素応答は、がん、免疫疾患などの病気でも認められ、代謝変化に伴って、その病態と密接に関与していると考えられている。低酸素下における、白血病細胞での遺伝子発現を行っており、その候補が得られた。また低酸素下では、白血病細胞がABL阻害薬に有意に耐性となることを確認 している。他施設との共同研究で、様々な化合物のライブラリー(1900種類)が使用可能である。ABL阻害薬耐性株を用いて、低酸素下スクリーニングを行っており、スクリーニング産物より、BCR-ABLとの会合について解析、糖代謝の検討を行っている。またBCR-ABLの点突然変異細胞、白血病幹細胞に対しての有効性について検証を行っている。また学術研究において、当初予期しない事態も想定されるが、週に一度のセミナー、リサーチミーティングなどを活用し、研究テーマの立案・手技・方法などの検討のみならず、科学的データの相互評価機構体制により、その都度研究方法を再確認することによって、研究課題の継続を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
細胞はミトコンドリアで酸素を燃焼させることにより、生存に必要なエネルギーの大部分を得ている。そのため、細胞への酸素供給が低下すると、生命の存続を脅かす「低酸素ストレス」となる。一方で生体は低酸素ストレスに対する防御機構を備えており、低酸素誘導性転写因子Hypoxia Inducible Factor(HIF)やNF-κBを中心とした遺伝子発現様式の変化が分子基盤となることが明らかとなってきた。がん細胞は通常の酸素濃度下においても、自身のエネルギー産生をTCA回路、電子伝達系によらず、解糖系に依存するという代謝的特徴(ワールブルグ効果)がある。これまでの研究では、このような代謝リモデリングはp53やc-Myc、HIFなどのストレス応答性転写因子群による代謝酵素遺伝子の発現誘導の結果によって生じる。しかし、周囲の環境やストレス応答による細胞内代謝の変動が代謝酵素タンパク質の翻訳後修飾動態を変化させて、エネルギー代謝を制御するという新しいメカニズムも存在する。このように代謝の変化に伴って、腫瘍の進展と薬剤の耐性化と密接に関与していると考えられている。固形腫瘍では、代謝の変化によりPFKFBが高発現しており、治療標的と考えられている。本研究では低酸素下における白血病幹細胞での代謝の変化、細胞を取り巻く免疫的な環境の解明、さらに再発の機序を明らかにすることにより、慢性骨髄整白血病症例の予後の改善、新たな治療法の開発につなげていきたい。
|
Causes of Carryover |
抗体、試薬の購入で差額が生じたため。本年度で使用する。
|