2021 Fiscal Year Research-status Report
非全身性血管炎性ニューロパチーの病態解明と新規治療法の開発
Project/Area Number |
20K07882
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小池 春樹 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (80378174)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
勝野 雅央 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (50402566)
飯島 正博 名古屋大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (40437041)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非全身性血管炎性ニューロパチー / 血管炎 / 顕微鏡的多発血管炎 / 抗好中球細胞質抗体 / 補体 |
Outline of Annual Research Achievements |
血管炎は様々な原因で発症し、神経障害、特に末梢神経障害(ニューロパチー)を高頻度にきたすことが知られている。急性または亜急性に進行し、治療によって原疾患を寛解に導いても神経障害が残存することが多いことから、早期からの治療介入が必要な疾患である。末梢神経系に限局した非全身性血管炎性ニューロパチー(non-systemic vasculitic neuropathy; NSVN)は、抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody; ANCA)関連血管炎の代表疾患である顕微鏡的多発血管炎と並んで血管炎によるニューロパチーの主要な原因と考えられるようになっている。しかし、NSVNは非特異的なニューロパチーの病像を呈し、血液検査でもCRP値や血沈も含めて異常所見に乏しいことから診断に難渋する場合が多い。さらに治療反応性を示すマーカーもないことから、治療方針の確立も困難である。このことから、NSVNの早期診断、早期治療につなげることのできるバイオマーカーを明らかにする必要がある。 本研究ではNSVNの臨床病理像を、日常診療の場で鑑別が問題となる顕微鏡的多発血管炎と比較することにより全身性血管炎との連続性を明らかにすることを目的とする。これまでの腓腹神経生検によって得られた検体を用いた検討によって、顕微鏡的多発血管炎では血管内皮細胞に接着した好中球を神経上膜の血管内腔に多く認め、一部の好中球は血管外に遊走し、脱顆粒やNETosisを呈しており、ANCAを介して好中球が病態に深く関与していることが明らかになった。これに対して、NSVNでは血管内皮細胞に接着した好中球は稀であり、血管壁への補体の沈着が目立った。このことから、NSVNでは血管壁の構成成分に対する自己抗体の沈着と、それに伴う補体の活性化が主要な病態であることが推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
名古屋大学医学部附属病院神経内科にコンサルテーションのあった症例も含めて、NSVN患者の発症年齢、初発症状、進行期間、障害の進展様式、重症度などの臨床像、および治療反応性も含めた長期予後を検討し、ANCA関連血管炎に伴うニューロパチー、特に顕微鏡的多発血管炎に伴うニューロパチーと比較した。男女比や神経症候は類似していたものの、NSVN群では若年での発症者が多く、血液検査での炎症を示唆する検査値はANCA関連血管炎群が有意に高かった。腓腹神経生検の病理所見に関しては、有髄線維密度から判定した神経線維脱落の程度は両群で類似しており、フィブリノイド壊死などの壊死性血管炎の所見も両群で認められた。しかしながら、神経上膜の血管内皮細胞に接着した好中球数はANCA関連血管炎群でNSVN群と比較して有意に多く、ANCA関連血管炎群では一部の好中球は血管外に遊走し、脱顆粒やNETosisを呈していた。これに対してNSVN群では血管外への好中球の遊走は見られなかった。一方、C3、C4、C5、MACなどに対する抗体を用いた免疫染色による検討では、補体の沈着がNSVN群で目立ったのに対し、ANCA関連血管炎群では目立たず、定量的な検討でも有意な差異を認めた。 これらの結果から、NSVNにおける血管炎の病態はANCA関連血管炎とは異なっており、血管壁の構成成分に対する自己抗体が関与していることが推測され、ANCA以外の自己抗体探索の必要性が確認された。現在、NSVN患者の血清を用いて、マウスの神経組織と特異的に反応する蛋白質の同定を行い自己抗体が認識する抗原エピトープの同定を行っている。また、精製した患者IgGとマウスのおよびヒトの各種神経組織(大脳・脳幹・小脳・脊髄・DRG・末梢神経など)を用いた免疫組織化学を行い、マーカーとなる既知の抗原との二重染色により、自己抗原の組織内分布を解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
NSVNの長期予後も含めた臨床像・病理像の検討に関しては今後も継続していく。症例のリクルートに関しては、名古屋大学大学院医学系研究科には、NSVNのみならず血管炎関連疾患全般に関して多数の生検および剖検例の蓄積がある。また、NSVNの認知度の高まりにつれて、今後も新規の症例が多数加わることが予想され、多数例での臨床病理学的なアプローチのみならず、治療反応性も含めた前向きの臨床研究も可能となる。免疫組織化学的検討や免疫電顕に必要な光学および電子顕微鏡をはじめとする機器は神経内科学教室および分析機器部門に設置されており、今後も本研究のために積極的に活用していく。これらの研究から得られた知見をもとに、NSVNを発症させる標的抗原の確定とモデルマウスの解析、治療への展開を目指す。本研究の研究分担者および研究協力者は研究代表者と同一の施設に在籍し、定期的に連絡調整を行っている。研究協力者の深見祐樹は他の研究協力者とともに末梢神経疾患の生検および剖検検体を用いた病態解析とモデルマウスの解析を行っている。モデルマウスの解析手法は研究分担者である勝野雅央らによって確立されており、この手法を活用する。また、研究成果は国内および海外での学会で積極的に発表するとともに、名古屋大学神経内科ホームページ、機会があれば報道機関などを通して研究成果を社会・国民に発信していく。 以上のような計画遂行で、NSVNの病態を究明し新規治療法の開発へつなげることができると考える。
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Research Products
(6 results)