2020 Fiscal Year Research-status Report
うつ病の認知機能障害に対する治療法の解明:δオピオイド受容体を介した改善機序
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20K07978
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
岩井 孝志 北里大学, 薬学部, 講師 (90339135)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 慢性ストレス / オピオイド / GABA / 海馬 / 不安 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は以前に、imipramine治療抵抗性の認知機能障害を誘発する慢性ストレス負荷マウス(以下ACMSマウス)に対して、δオピオイド受容体逆作動薬SYK-623が抗うつ様作用と学習記憶改善作用を示すことを明らかにした。本研究課題では、海馬においてδオピオイド受容体の大部分がGABA神経に分布していることから、ACMSマウスのGABA海馬神経に対するSYK-623 慢性投与の効果について検討した。ACMSマウスでは、GABA神経のマーカーであるglutamic acid decarboxylase (GAD)およびparvalbumin (PV)陽性面積が減少していたが、この減少はSYK-623慢性投与により阻害された。このことから、SYK-623は慢性ストレスからGABA神経を保護することが示唆された。 次に、海馬のGABA神経が海馬の活動リズムに重要な役割を果たしていることから、海馬局所電位の測定を行った。短期記憶の試験であるY-字型迷路遂行中において、ACMSマウスの海馬θ波のピーク周波数は、SYK-623慢性投与によって高くなる傾向が見られた。ヒトでもθ波と短期記憶の関連が報告されているため、さらに検討を重ねることで行動改善との関与について明らかにする予定である。 当初の計画にはなかったが、GABA神経が不安や睡眠に重要な役割を持つことから、これらの機能に対するSYK-623の作用について検討した。ACMSマウスは、正常マウスと比較して顕著な不安を誘導しなかったが、diazepamの抗不安様効果が減弱した。SYK-623慢性投与により、ACMSマウスにおけるdiazepamの効果は増強された。また、ACMSマウスでは、明期の睡眠時間が減少していたが、SYK-623慢性投与により睡眠時間の減少は起こらなかった。これらの結果は、SYK-623が抑うつや認知機能だけでなく、睡眠障害や治療抵抗性不安に対する効果を持つ可能性を期待させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の目的としては、δオピオイド受容体逆作動薬SYK-623の慢性投与が、慢性ストレスからGABA神経を保護することや、Y-字型迷路遂行中の海馬θ波の周波数に影響を及ぼすことを見出した。これらに加えて、抗不安薬の感受性増強や睡眠改善といった、予定外の成果が得られた。しかし、SYK-623がGABA神経に作用することを示すために、GABA神経マーカーと神経活動マーカーとの共染色を行う予定であったが、購入した神経活動マーカーの抗体が働かず、染色条件の確立に時間を費やしてしまった。また、海馬局所電位の測定のために購入した増幅器の故障により、数例を検討した時点で実験の継続が困難になった。当初の目的に加えて予定外の成果が得られた点で順調ともいえるが、当初の目的が十分に達成できていないことからやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
SYK-623がGABA神経に作用していることを示すために、慢性投与だけでなく、単回投与を行った後のGABA神経活性化についてFos抗体やCREB抗体を用いて明らかにする必要がある。また、不安などへの影響が見られたため、前頭皮質や扁桃体のGABA神経密度に対する作用についても明らかにする。 海馬局所電位については、修理が遅れるようであれば別の機器を購入して検討を進め、より詳細な検討を行う。 行動や海馬局所電位に対するSYK-623の作用とGABA神経との関連を示すため、GABA神経に対して細胞死を誘導させたマウスでSYK-623の作用を明らかにする。細胞死を誘導するために、GAT-1サポリン投与を行う。現在、別の細胞死誘導薬で局所投与の条件を設定中であり、海馬に限局した細胞死が観察されている。
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Causes of Carryover |
機器および消耗品の価格が予定よりも低かったため差額が生じた。 繰り越した分は次年度の消耗品購入に充てる予定である。
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