2021 Fiscal Year Research-status Report
精神病発症危険状態(ARMS)の回復と皮質-線条体-視床回路の変化に関する研究
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20K07980
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
片桐 直之 東邦大学, 医学部, 准教授 (70459759)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | At risk mental state / MRI / 大脳皮質-線条体-視床ループ / 探索眼球運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
統合失調症の精神病症状の発現にはドパミン受容体が豊富に存在する線条体や線条体を経由する大脳皮質-線条体-視床ループの障害が関連することが示唆されている。大脳皮質-線条体-視床ループは、線条体を構成する神経核である被殻、尾状核や側坐核それぞれを経由するサブループなどに分かれその機能も異なる。 本研究では、精神病発症危険状態(At risk mental state:ARMS)における精神病発症閾値下の精神病症状の変化に、大脳皮質-線条体-視床サブループの変化が関連するという仮説をたて、一年間の精神病発症閾値下の精神病症状と大脳皮質-線条体-視床のサブループの変化の関連を調べることを目的とした。併せてARMSで生じる探索眼球運動の変化と大脳皮質-線条体-視床サブループの変化が関連するかを調べることを目的とした。眼球運動は様々な高次機能と関連することが示唆されている。 大脳皮質-線条体-視床サブループの生物学的変化はDTI(Diffusion tensor Image)を用いFA(Fractional Anisotropy)値を計測することにより得た。また、精神病発症閾値下の精神病症状はThe Scale of Prodromal Symptoms (SOPS)により調べた。 ARMS群の精神病発症閾値下の精神病症状と大脳皮質-線条体-視床のサブループの関連を調べた結果、ARMS群内において発症閾値下の陽性症状のスコアと右前頭‐線条体間のFA値が有意に相関した。これは、右前頭-線条体間の白質の統合性が低いほど閾値下の陽性症状が顕在化することを示唆するものである。また、同群において眼球運動(平均移動距離)と前頭―視床間のFA値が有意に相関した。これは、前頭―視床間の白質の統合性が低下する程、探索眼球運動が低下することを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に続き本年度もARMS群と健常群の募集を行った。本研究は、横断研究と縦断研究から構成されている。横断研究では、研究への参加時をBaselineとし、健常群とARMS群に対し脳MRI の撮像と探索眼球運動の計測を行う。また、ARMS群についてはSOPSによる精神症状の評価を行う。縦断研究では、ARMS群の経過をBaselineから一年間(52週)追った後、Structured Interview for Prodromal Syndrome(SIPS)により精神病への移行が認められた群をARMS発症群、認められなかった群をARMS非発症群とし、再度、脳MRI の撮像とEEMの計測を行うとともに、SOPSによる精神症状の評価を行う。 横断研究については、2021年度中にARMS群と健常群の相違を横断的に調べることが可能な症例数に達した。ARMS群の精神病発症閾値下の精神病症状と大脳皮質-線条体-視床のサブループのFA値の関連を調べた結果、ARMS群では、発症閾値下の陽性症状のスコアと右前頭‐線条体間のFA値の間で有意な相関が認められた。また、同じくARMS群内において探索眼球運動(平均移動距離)と前頭―視床間のFA値の有意な相関が認められた。これらの結果は本研究の仮説と一致するものであり、横断研究については予定通りの進捗が得られていると判断した。 一方、縦断研究については、コロナ禍の影響によりしばしばARMS症例の経過を一年におよび追うことが困難であったため、ARMS群の縦断的変化を十分に統計解析できる症例数を得ることはできなかった。そのため縦断研究はやや進捗が遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も継続して健常群とARMS群の募集を行う。横断研究については症例数を増やしより詳細な解析を進める予定である。また縦断研究については、十分に統計解析が行える症例数に達するまで募集を継続する予定である。 症例数が集まり次第、昨年同様に順に以下の解析を進める。(1)まず、baselineのARMS非発症群、ARMS発症群と健常群の三群それぞれの大脳皮質-線条体-視床各サブループ上の各脳部位間を結ぶ神経線維のFA値を調べ、各群間のサブサーキットの相違を調べる(横断的研究)。(2)次にARMS発症群と非発症群間の1年間のサブループ上の各脳部位間のFA値の縦断的変化の相違を調べる(縦断的研究)。(3)さらに発症群と非発症群それぞれの閾値下の精神病症状の変化とそれぞれのループ上の神経核間のFA値の変化や探索眼球スコアが関連するか、などを重回帰分析を用い解析することを予定している。 本研究では、これまでの我々の研究において、被殻や側坐核の病的変化を認めたことから、それぞれを経由する大脳皮質-線条体-視床ループのサブループであるSkeletomotor loopやLimbic loop上のFA値も変化し、閾値下の精神病症状の変化と関連するかを明らかにする予定である。併せて、ARMS群において探索眼球運動の異常が生じることから、探索眼球運動の異常と眼球運動を司る前頭眼野-尾状核を経由するOculomotor loop上のFA値の変化が関連するかを明らかにする予定である。これにより、ARMSから精神病症状が発現する過程において大脳皮質-線条体-視床ループの変化が関連するかを明らかにすることができる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により2021年度は、学会への参加などが十分に行えなかったため、学会費、旅費や宿泊費の使用を先送りとした。また横断研究の遂行に必要な研究参加者数は最低限募集できたが、コロナ禍により縦断研究の遂行に必要な症例数は十分に募集できなかった。そのため、同症例の募集を目的とした額が使用されずに残った。また、縦断研究の募集が目標数に満たないことから、統計解析も行うことができず、画像解析ソフトの購入なども先送りとしているため次年度使用額が生じている。 次年度は、継続して研究参加者を募集することを予定している。研究参加者への謝礼、研究参加者に施行する脳画像検査を施行する検査技師と心理テストを施行する心理士への人件費、諸検査に必要な器具の費用、画像解析ソフトの購入に次年度使用額を使用することを予定している。 また、2021年度に発表予定であった未発表の研究結果を学会で発表する上での準備や参加のために使用する費用や、英文論文執筆の上での翻訳料などに次年度使用額を使用する計画を立てている。
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[Presentation] At Risk Mental Stateにおける上視床放線と探索眼球運動の関連2021
Author(s)
荒井悠, 片桐直之, 齋藤淳一, 堀正明, 神谷昂平, 大久保卓史, 紫藤佑介, 田形弘実, 今川弘, 根本隆洋, 水野雅文
Organizer
第43回日本生物学的精神医学会・第51回日本神経精神薬理学会 合同大会