2022 Fiscal Year Research-status Report
精神病発症危険状態(ARMS)の回復と皮質-線条体-視床回路の変化に関する研究
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20K07980
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
片桐 直之 東邦大学, 医学部, 准教授 (70459759)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 精神病発症危険状態(ARMS) / 減弱精神病状態(APS) / 拡散強調画像(DTI) / 前頭-線条体-視床回路 / 探索眼球運動 / 不飽和脂肪酸 / アラキドン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
統合失調症の発症にはドパミン神経系の異常が関連する。ドパミン受容体が豊富に存在する線条体は、前頭-線条体-視床回路を介し前頭葉と視床の間の神経連絡を担う。そのため、線条体はヒト特有の内的表象を司る前頭葉と外界からの感覚神経が入力する視床との間の情報の調整を担うと考えられている。統合失調症に特有な精神症状は、前頭-線条体-視床回路に障害が生じ、内的表象と外界との間の情報処理に障害が生じるため惹起されると考えられている(異常サリエンス仮説)。これまで、我々は精神病発症危険状態(ARMS)においても、前頭-線条体-視床回路のうち線条体の一部である被殻において体積の減少が生じていることを報告した(Katagiri et al., 2019)。 本研究では、ARMSのサブグループである減弱精神病状態 (APS)において、前頭-線条体-視床回路をつなぐ神経線維束に変化が生じているかをDTIを用い調べることを目的とした。①これまでにARMSの被殻で病的変化が認められたことから、被殻と神経連絡を有する前頭の運動前野に着目し、APSにおいて運動前野‐線条体間、運動前野‐視床間の神経線維束に生物学的変化が生じているか調べた。②これまで我々はARMSにおいて探索眼球運動に障害が生じることを報告している(Shidou et al, 2020)。探索眼球運動は前頭葉の中心溝周辺部の前頭眼野や視床などが担う。そのため、APSで生じる探索眼球運動の障害に中心溝周辺部と視床を結ぶ神経線維束である上視床放線の生物学的変化が関連するかを調べた。③統合失調症では脳内の神経連絡を担う神経線維束のミエリン鞘を構成する不飽和脂肪酸に病的変化が生じ神経線維束の障害が生じる可能性が報告されている。APSでも不飽和脂肪酸の病的変化が生じるか、また同変化が前頭‐線条体‐視床間の神経線維束の生物学的変化と関連するかを調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度はAPS群と健常群の相違を解析した。解析の結果、①健常群に比べAPS群では左運動前野‐線条体間のFA値が有意に増加し、右運動前野‐視床間のFA値が有意に減少していた(DTIにより計測されたFA値は神経線維束の統合性の指標と考えられている)。本結果から、APS群において、運動前野‐視床間の神経線維の統合性が低下する一方、運動前野‐線条体間の統合性は亢進していることが示唆された。統合失調では前頭葉ー視床の間に障害が生じ、代償性に線条体のドパミン神経系が亢進すると考えられているため、同変化との関連が示唆された。 ②APS群内において探索眼球運動のうち平均移動距離が上視床放線のFA値と有意に相関した。この結果はAPSで生じる探索眼球運動の異常には中心溝周辺部と視床を結ぶ神経線維束である上視床放線の統合性の低下が関連することが示唆された。 ③健常群に比べAPS群において神経連絡を担う神経線維束のミエリン鞘を構成する主な不飽和脂肪酸であるアラキドン酸値が有意に増していた。また、APS群内においてアラキドン酸値は前頭前野‐線条体間のFA値の変化と相関した。アラキドン酸の増加はミエリン鞘に神経毒性を有することや炎症関連物質であることが報告されている。本研究結果から、アラキドン酸の高値が、前頭‐線条体間の神経線維束の統合性に変化を与える可能性が示唆された。 当初の研究計画①から発展し②、③の研究結果が新たに加わった。予想を超える研究成果が得られたが、これらの研究の報告をまとめるために時間を要している。そのため、研究期間を延長している。既に①,②,③については中間報告を学会で行っている。さらに論文化を進めており、英文校正と投稿に尚時間と予算を要している。そのため、進捗が遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果(下記)から、①健常群に比べAPS群において、運動前野‐視床間の神経線維の統合性が低下する一方、運動前野‐線条体間の統合性は亢進していること、②APSで生じる探索眼球運動の異常には中心溝周辺部と視床を結ぶ神経線維束である上視床放線の統合性の変化が関連すること、③APS群内において、アラキドン酸値の変化が、前頭‐線条体間の神経線維束の統合性の変化に関連すること、などの知見を得た。 いずれも、APSにおいて、前頭‐線条体‐視床回路上において生物学的変化が生じていることを示す。既に①,②,③については中間報告を学会で行っているが、今後はこれらの研究の報告をまとめ、論文化を進める。 さらに、前頭-線条体-視床回路は、線条体を構成する神経核である被殻、尾状核や側坐核それぞれを経由するサブ回路などに分かれその機能も異なることから、今年度は、①、②、③の研究結果を統合し、前頭-線条体-視床回路のサブ回路の相違や相互の関係性につき新たに知見を得ることを計画している。また、同解析、発表、論文化を計画している。
Katagiri N et al.,. Longitudinal changes in striatum and sub-threshold positive symptoms in individuals with an 'at risk mental state' (ARMS). Psychiatry Res Neuroimaging (2019);285:25-30. Shido Y et al.,. Characteristics of Exploratory Eye Movements in Individuals with Attenuated Psychotic Syndrome. Toho J Med(2020) 6 (2): 82―89
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Causes of Carryover |
当初の研究計画①から発展し②、③の研究結果が新たに加わった。予想を超える研究成果が得られたが、研究結果は膨大であり、整理に時間を要し、研究結果の最終発表に遅れが生じ、次年度に行う予定となった。そのため未使用額が生じた。既に①,②,③については中間報告を学会で行っているが、最終成果は次年度にスイスで開催される国際学会(IEPA14)で行うことを予定しており、同学会への参加費、旅費、宿泊費が必要であり、次年度に使用を予定している。 また、①、②、③の論文化に時間を要しており、今年度は英文校正と投稿に至らず未使用額が生じたが、次年度初頭には英文校正と投稿の目途が立っている。英文校正と投稿に対し次年度に未使用額の使用を予定している。 さらに、①、②、③の研究結果を統合し解析し、前頭-線条体-視床回路のうち各サブ回路間の相互の関係性につき新たに知見を得ることを計画しており、同解析、発表、論文化にも予算を使用することを計画している。
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