2020 Fiscal Year Research-status Report
ポリリン酸がミトコンドリア活性を調節して放射線感受性を制御するメカニズムの解明
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20K07987
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
堤 香織 北海道大学, 保健科学研究院, 助教 (80344505)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ポリリン酸 / ミトコンドリア / 放射線感受性 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度であるR2年度は、(1)0.1~1 mMポリリン酸で処理した腫瘍細胞の放射線感受性、(2)ミトコンドリア膜電位の変化の測定、(3)ミトコンドリア膜透過性遷移孔活性阻害剤シクロスポリン A存在下における細胞内ATP量の変化をポリリン酸の有無によって観察、(4)ミトコンドリア膜透過性遷移孔を構成するミトコンドリア外膜タンパク質VDAC1の発現の確認を目標として研究を実施した。以下にその結果と進行状況、計画の変更を記載する。 ヒト肺非小細胞癌由来細胞株H1299をカルシウム依存性のない高濃度1mMのポリリン酸で処理した際のATP量を観察したところ、コントロールと比較して細胞増殖に伴うATP量の増加は少なかった。しかしながら、ADP/ATP比には差異はみられなかった。また、シクロスポリンA(CsA)存在下、非存在下でのATP量にも差はみられなかった。エネルギー代謝経路への影響を考えて乳酸の分泌量を比較したが、ポリリン酸処理細胞とコントロール細胞に差は認められなかった。一方、JC10を用いてミトコンドリアの膜電位を測定したところ、ポリリン酸で処理後3日目の細胞群でコントロールと比較して膜電位の低下が見られたが、安定した結果を得ることが出来ず今後繰り返しの実験と検討が必要である。VDAC1の発現量の変化については観察に至っていない。ヒト悪性神経膠芽腫由来細胞株T98Gでも1mMポリリン酸処理によるATP量の抑制が観察されたが、6 MV 4Gyならびに10GyのX線照射による細胞生存率の比較では、ポリリン酸による放射線感受性増感効果は観察されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
R2年度は、新型コロナ感染拡大防止のための在宅勤務や実験室の閉鎖や入室制限等により研究の進捗状況は大きく遅れている。また当初予想していたポリリン酸処理によるミトコンドリアの膜電位の低下が安定して観察することができなかったことから、その後の解析の方向を定めることが出来ず、関連分子の遺伝子発現やタンパク質発現の確認まで実験が及んでいない。一方で、ミトコンドリア内在性のポリリン酸が放射線感受性に及ぼす影響や細胞外ポリリン酸がどのように細胞内に作用するのかという新たな課題も明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在も新型コロナ感染予防の措置により実験室への入室が制限されているため、実験の遂行は情勢に左右されるところである。R3年度は、ヒト悪性神経膠芽腫由来細胞株T98Gを利用した実験ではポリリン酸による放射線感受性増感効果は観察されなかったことから今後の研究はH1299にターゲットを絞ることとする。引き続きミトコンドリア膜電位の変化を観察し、VDAC1等のミトコンドリア膜電位関連分子の発現量を観察したい。また、前年度はポリリン酸を培地に添加することによる細胞外からの刺激によるミトコンドリアへの影響を観察してきたが、ポリリン酸がどのように細胞にシグナルを伝達するのか、そのメカニズは現在のところまったくわかっていない。つまり、細胞外のポリリン酸が細胞表面の膜受容体に結合することにより細胞内にシグナルを伝達するのか、あるいはエンドサイトーシスによって細胞内に取りこまれてミトコンドリアに直接作用するのか、その機序は未明である。また、内在性のミトコンドリア内ポリリン酸の低下が細胞内ATPの量低下やストレス耐性の低下を導くとの報告があることから、細胞外から添加したポリリン酸による作用と内在性のミトコンドリア内ポリリン酸の放射線感受性の影響の違いについても明らかにしたい。R3年度は国内外の研究者と密に連絡をとりながら、協力体制を強固にとりながら研究を進める予定である。またR3年度は国内学会での研究成果報告も行いたい。
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Causes of Carryover |
研究施設閉鎖や利用人数の制限、国内外の移動制限、学術集会の中止あるいは延期など、研究環境に制約が生じたことにより使用額に変更が生じたためR2年度の使用額が予定より少なくなっている。R3年度は予定通り研究を遂行できると想定し、R2年度に遅れた研究の推進と研究成果報告のための予算を計上した。
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